熱性けいれんやてんかんの既往がある方には、注意が必要な薬があります。
代表的なものとして、第一世代抗ヒスタミン薬やテオフィリン製剤は、けいれんに関与する可能性があるため、使用に慎重な判断が求められます。
そのため、過去に熱性けいれんやてんかんを起こしたことがある場合は、医療機関を受診する際に必ず伝えることが大切です。
また、医療従事者側も既往歴の確認を徹底する必要があります。
てんかんは意識消失やけいれんを繰り返す疾患ですが、この記事では特に「熱性けいれん」に焦点を当て、病態と薬の関係についてわかりやすく解説します。
① 熱性けいれんとは
■どんな病気か
熱性けいれんは、38℃以上の発熱に伴って突然起こるけいれん発作です。
発作時には、次のような様子がみられます。
- 名前を呼んでも反応がなく、視線が合わない
- 白目をむいたり、意識を失って倒れる
- 手足をピーンと伸ばして全身が硬くなる
- ガクガクと大きく手足を動かしたり、細かく震える
また、症状が強い場合には、このような変化がみられることもあります。
- 顔色が悪く青白い
- 唇や口元が紫色になる(チアノーゼ)
- 呼吸が弱くなる
▪️熱性けいれんが起こるメカニズム
熱性けいれんは、生後6ヶ月〜5歳頃の子どもに多くみられ、38℃以上の発熱時に起こります。
特に、発熱開始後24時間以内など、体温が急激に上昇するタイミングで起こりやすいとされています。
この年代の子どもは脳の発達がまだ未熟で、外からの刺激に対して興奮しやすい状態にあります。
そのため、急激な発熱という強い刺激にうまく対応できず、神経細胞が過剰に興奮(異常な電気信号の発生)を起こします。
その結果、脳から全身の筋肉へ異常な信号が伝わり、けいれん発作として現れると考えられています。
また、熱性けいれんには遺伝的要因の関与も指摘されており、親や兄弟に既往がある場合には、発症リスクが高くなることが知られています。
■熱性けいれんとてんかん
熱性けいれんとてんかんは、どちらも脳の神経細胞が過剰に興奮し、異常な電気信号(放電)が発生することで発作が起こるという点では共通しています。
しかし、その性質には大きな違いがあります。
熱性けいれんは、発熱に伴って一時的に起こる発作であり、多くは成長とともに自然にみられなくなります。
一方で、てんかんは発熱の有無に関わらず発作を繰り返す慢性的な疾患で、脳の異常や遺伝的要因などが関与する場合があります。
また、熱性けいれんを経験した子どもが将来的にてんかんへ移行するケースはありますが、その頻度は高くありません。
▪️熱性けいれんの分類
熱性けいれんは、大きく「単純型」と「複雑型」に分けられます。
- 単純型
5分以内でおさまる
症状は全身性で左右対称
けいれんするのは24時間のうち1回のみ
多くは予後良好
- 複雑型
15分以上続く
症状に左右差がある
短時間でけいれんを繰り返す
一部でてんかんへの移行リスクがやや高いとされる
多くの熱性けいれんは単純型に分類され、成長とともに症状が出なくなり、後遺症の心配もありません。
複雑型の場合は再発や神経学的リスクがやや高くなるため、より慎重な対応が必要です。
そのため、既往がある場合は「どのタイプだったか」も含めて医療機関に伝えることが重要です。
② 熱性けいれんと薬の注意点
■発作時・予防の薬
再発予防や発作時には、ダイアップ坐剤(ジアゼパム)が使用されることがあります。
発熱時に使用するケースもありますが、使用するタイミングや適応は個々の状況(発作のタイプや頻度など)によって異なります。
そのため、事前に医師の指示を確認し、適切に使用することが重要です。
■坐剤を使用する際の注意点
けいれん予防でダイアップ坐剤を使用している場合、解熱剤のカロナール坐剤(アセトアミノフェン)との使い方に注意が必要です。
一般的に、坐剤は基剤の性質の違いにより、短時間で続けて使用すると吸収に影響が出る可能性があります。
そのため、まず水溶性のダイアップ坐剤を使用した後に、30分以上あけてから脂溶性のカロナール坐剤を使用することが推奨されます。
■注意が必要な薬
以下の薬は、けいれんのリスクを高める可能性があるため注意が必要です。
- 第一世代抗ヒスタミン薬
※代表的な第一世代抗ヒスタミン薬を以下にまとめています。

また、これらの成分は総合感冒剤や一般用医薬品(市販薬)にも含まれていることがあります。
知らずに使用してしまうケースもあるため、成分表示を確認することが重要です。
- テオフィリン製剤
テオドール、テオロング、ユニフィルなどがあります。
■なぜけいれんが起こりやすくなるのか
これらの薬は中枢神経に作用し、脳の興奮性を高める方向に働くことがあります。
- 第一世代抗ヒスタミン薬
第一世代抗ヒスタミン薬が熱性けいれんの既往がある方に注意が必要とされる理由の一つに、中枢神経への作用があります。
これらの薬は血液脳関門を通過しやすく、脳内に移行してヒスタミン受容体を遮断します。
ヒスタミンは脳を覚醒させる働きがあるため、抗ヒスタミン薬では眠気(鎮静作用)が現れます。
一見すると、「脳を落ち着かせる=けいれんを起こしにくくする」と思われがちですが、実際はそう単純ではありません。
ヒスタミンは覚醒だけでなく、脳の過剰な興奮を抑える役割(抑制系)にも関与しています。
いわば「脳のブレーキ」のような働きをしています。
そのため、ヒスタミンを遮断すると眠気などの鎮静作用が現れる一方で、このブレーキが弱まり、神経細胞が興奮しやすくなる側面もあります。
このように、見かけ上は脳を落ち着かせているように見えても、一部では興奮を抑える働きが低下するため、結果として神経細胞が興奮しやすい状態になると考えられています。
- テオフィリン
テオフィリンが熱性けいれんの既往がある方に注意が必要とされる理由の一つに、中枢神経への刺激作用があります。
テオフィリンは、気管支を広げる作用に加えて、脳に対しても刺激的に働くことが知られています。
その作用の一つに、カフェインの作用でも知られている「アデノシン受容体を阻害する働き」があります。
アデノシンは、脳の神経活動を抑える「ブレーキ」のような働きをしており、神経の過剰な興奮を防ぎ、眠気を引き起こす物質としても知られています。
しかし、テオフィリンはこのアデノシンの働きを抑えてしまうため、神経細胞が興奮しやすい状態になります。
■抗ヒスタミン薬とテオフィリンの共通点
第一世代抗ヒスタミン薬とテオフィリンは、一見すると作用は異なりますが、どちらも脳の抑制機能(ブレーキ)に影響を与えるという共通点があります。
- 抗ヒスタミン薬 → 抑制系を遮断する
- テオフィリン → 抑制系(アデノシン)を弱める
このように、異なる仕組みであっても、結果として神経細胞が興奮しやすい状態となり、けいれんを起こすハードル(けいれん閾値)が下がる可能性があると考えられています。
そのため、熱性けいれんの既往がある場合は、これらの薬の使用には注意が必要です。
特に発熱時はもともとけいれんが起こりやすい状態であるため、より慎重な対応が求められます。
■発熱時でなければ使ってよい?
原則として、既往がある場合は慎重投与または回避が推奨されています。(熱性けいれん診療ガイドラインでも注意喚起されています)
これらの薬は発熱の有無にかかわらず、脳の興奮性に影響を与える可能性があるためです。
そのため、「熱がないから大丈夫」とは考えず、体質としてのリスクを踏まえて使用を検討することが重要です。
③ 熱性けいれんを起こしたときの対応
■まずやるべきこと
- あわてず、けいれんが始まってからの時間を確認する
5分以上続くかどうかが重要な目安になります
- 衣服をゆるめて楽な姿勢にする
- 顔を横に向けて吐物による窒息を防ぐ
体の右側を下にするとよいとされますが、どちらでも構いません
■やってはいけないNG行動
- 口の中に物を入れる(指・タオル・割りばしなど)
舌を噛むのを防ごうとして行われがちですが、窒息や嘔吐のリスクがあり危険です
- 体を強く押さえつける
- 無理に意識を戻そうとする
■受診の目安
以下の場合はすぐに医療機関を受診してください。
また、不安が強い場合は、救急車を呼んでも問題ありません。
- 5分以上けいれんが続く
- 意識がなかなか戻らない
- 左右差がある
- 初めての発作
- 1日に何度も繰り返す
一方で、以下のような場合は緊急性が低く、当日〜翌日の受診でもよいとされています。
- 5分未満で自然におさまった
- 全身性で左右差がない
- 発作後に意識が戻り、普段に近い様子に回復している
- 繰り返していない
ただし、判断に迷う場合や不安がある場合は、無理に様子を見るのではなく、医療機関へ相談することが大切です。
④ まとめ
熱性けいれんは、乳幼児に比較的よくみられる発作で、多くは予後良好とされています。
ただし、薬の中にはけいれんに影響するものもあるため注意が必要です。
- 第一世代抗ヒスタミン薬やテオフィリンは慎重に使用
- 既往歴は必ず医療機関に伝える
- 発作時は落ち着いて対応する
「なぜ起こるのか」「なぜその薬に注意が必要なのか」を理解することで、薬の選択や受診の判断に役立てることができます。
不安な点があれば、自己判断せず医療機関や薬剤師に相談しましょう。
