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  • プロポフォールとは?作用機序・副作用・マイケル・ジャクソン事件まで薬剤師が解説

    プロポフォールとは?作用機序・副作用・マイケル・ジャクソン事件まで薬剤師が解説

    今回の記事で解説するのは、全身麻酔薬として使用されるプロポフォールです。

    プロポフォールは、手術や内視鏡検査、集中治療室(ICU)での鎮静などに広く用いられている静脈麻酔薬であり、現在の医療現場には欠かせない薬剤の一つです。

    しかし、プロポフォールは病院の手術室や集中治療室などで使用される薬剤であり、一般の方が手にすることはもちろん、保険薬局で調剤されることもほとんどありません

    一方で、世界的アーティストであるマイケル・ジャクソン氏の死亡事件をきっかけに、その名前を知ったという方も多いのではないでしょうか。

    では、なぜ本来は医療現場で安全に使用されている麻酔薬が、このような事件で注目されることになったのでしょうか。

    この記事では、プロポフォールの作用機序や副作用、なぜ医療機関でしか使用できないのかという理由まで、薬剤師の視点からわかりやすく解説します。

    ①プロポフォールとは?

    プロポフォールは、全身麻酔の導入や鎮静に使用される静脈麻酔薬です。

    手術では全身麻酔を開始するための「麻酔導入薬」として広く使用されているほか、集中治療室で人工呼吸器を装着している患者さんの鎮静や、内視鏡検査などで意識を落ち着かせる目的でも使用されています。

    プロポフォールの最大の特徴は、作用時間が非常に短い「超短時間作用型」の麻酔薬であることです。

    静脈内に投与すると数十秒ほどで意識が消失します。また、プロポフォールは体内で速やかに再分布・代謝されるため、投与を中止すると比較的短時間(数分~十数分程度)で覚醒するという特徴があります。

    そのため、麻酔の深さを細かく調節しやすく、目覚めもスムーズであることから、現在の麻酔医療には欠かせない薬剤となっています。

    また、病院勤務でなければ、薬剤師でも実物を見る機会は少ない薬剤です。

    しかし、この優れた麻酔薬は、本来の医療用途とは異なる出来事をきっかけに、世界中へその名が知られることになりました。

    では、なぜこの薬が世界的に有名になったのでしょうか?

    ②なぜマイケル・ジャクソン事件で有名になったのか

    プロポフォールの名前が世界中に知られるきっかけとなったのが、2009年に亡くなった世界的歌手、マイケル・ジャクソンの死亡事件です。

    当時、マイケル・ジャクソンは不眠症に悩んでおり、自宅で睡眠を目的としてプロポフォールの投与を受けていたことが報道されました。

    しかし、プロポフォールは本来、全身麻酔や鎮静を目的として医療機関で使用される薬であり、睡眠薬として使用することは想定されていません。

    その後、マイケル・ジャクソンの死亡にプロポフォールが関与したことが大きく報道されたことで、この薬の名前を初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。

    では、なぜプロポフォールは睡眠薬の代わりとして使用してはいけないのでしょうか。

    その理由は、プロポフォールが「眠る薬」ではなく、「全身麻酔薬」だからです。

    次に、その作用機序について詳しく見ていきましょう。

    ③なぜ危険なのか?作用機序と副作用

    プロポフォールは非常に優れた麻酔薬ですが、その一方で適切な管理のもとで使用しなければ命に関わる危険性があります。

    その理由は、プロポフォールが脳の働きを強力に抑える薬だからです。


    プロポフォールの作用機序・GABA-A受容体刺激

    私たちの脳では、多くの神経細胞が電気信号を送り合うことで、意識や呼吸、血圧などの生命活動をコントロールしています。

    その神経活動をブレーキのように抑える働きを持つ神経伝達物質が、「GABA(γ-アミノ酪酸)」です。

    プロポフォールは、このGABAと同じような働きをすることで、脳の活動を強力に抑えます。正確には、GABAが作用するGABA-A受容体に作用して、その働きを強めています。

    その結果、神経細胞の活動が大きく抑えられ、意識が消失して麻酔状態になります。

    つまり、プロポフォールは「眠気を誘う薬」ではなく、「脳全体の活動を強力に抑える薬」なのです。



    副作用

    プロポフォールの副作用には、呼吸抑制・呼吸停止、血圧低下、アナフィラキシー、注射時の血管痛、依存性(不適切使用)などがあります。

    【1】なぜ呼吸停止が起こるのか

    脳には、呼吸のリズムを自動的に調節している「呼吸中枢」があります。

    プロポフォールは、この呼吸中枢の働きも抑えてしまうため、呼吸が浅くなり、投与量が多くなりすぎると呼吸停止を起こすことがあります。

    そのため、プロポフォールを使用する際には、酸素飽和度や呼吸状態を常に監視し、必要に応じて人工呼吸を行える環境が必要になります。

    【2】なぜ血圧が低下するのか

    プロポフォールは血管を拡張させる作用があるほか、心臓の収縮力もやや低下させます。

    その結果、血圧が低下することがあります。

    健康な方では大きな問題にならないこともありますが、高齢者や循環器疾患のある患者さんでは、急激な血圧低下に注意が必要です。

    【3】依存性はあるのか

    プロポフォールは麻薬ではありませんが、多幸感や強いリラックス感を感じることがあるため、不適切に使用すると精神的依存を形成する可能性があります。

    実際に、海外だけでなく日本でも、医療従事者による不適切使用や依存が報告されています。

    しかし、少し量を誤るだけでも呼吸停止など命に関わる副作用を起こす危険性があるため、娯楽目的や睡眠目的で使用してはいけません。

    このように、プロポフォールは適切な環境で使用すれば非常に優れた麻酔薬ですが、一歩使い方を誤れば命に関わる危険性を持つ薬でもあります。

    ④なぜ病院でしか使えないのか

    プロポフォールは非常に優れた麻酔薬ですが、安全に使用するためには医療機関での厳重な管理が欠かせません。

    前の章で説明したように、プロポフォールは脳全体の活動を強力に抑えるため、呼吸停止や血圧低下などの重篤な副作用が起こる可能性があります。

    そのため、病院ではプロポフォールを使用する際に、患者さんの状態を常に監視しながら投与を行っています。

    病院では、次のような設備や管理体制のもとで使用されています。

    • 心電図による心拍の監視
    • SpO₂(酸素飽和度)の測定
    • 血圧の継続的な測定
    • 酸素投与
    • 必要に応じた人工呼吸器の使用

    さらに、麻酔科医や麻酔管理の訓練を受けた医療従事者が、患者さんの状態を確認しながら薬の量を細かく調節しています。

    このような管理体制があるからこそ、プロポフォールは安全に使用することができるのです。

    一方で、家庭にはこのような設備や医療スタッフはいません。

    もし投与中に呼吸が止まったり血圧が急激に低下したりしても、すぐに適切な処置を行うことは極めて困難です。

    そのため、プロポフォールは医療機関以外で使用してはいけない薬とされています。



    マイケル・ジャクソンは主治医から自宅で投与を受けていましたが、これは極めて特殊な事例です。本来、プロポフォールは呼吸や循環を継続的に監視できる環境で使用すべき薬剤であり、一般の診療や家庭で使用されることはありません。

    近年では、医療従事者による不適切な使用や、テレビ番組での取り扱いが議論となったこともあります。

    プロポフォールは、適切な医療管理のもとで使用されて初めて、その高い有効性と安全性を発揮する薬剤です。

    一方で、管理体制のない環境で使用すれば、命に関わる危険性を伴います。

    「眠れる薬」ではなく、「命を管理しながら使用する全身麻酔薬」であることを理解しておくことが重要です。

    ⑤ まとめ

    プロポフォールは、現在の麻酔医療に欠かすことのできない非常に優れた静脈麻酔薬です。

    作用時間が短く、麻酔の深さを細かく調節しやすいことから、全身麻酔の導入や集中治療、内視鏡検査など、さまざまな医療現場で広く使用されています。

    一方で、プロポフォールは睡眠薬ではありません。

    脳全体の活動を強力に抑えることで意識を消失させる薬であり、呼吸停止や血圧低下など命に関わる副作用を起こす可能性があります。

    そのため、心電図やSpO₂、血圧の監視、酸素投与や人工呼吸器などの設備が整った環境で、麻酔科医をはじめとする医療従事者の厳重な管理のもとでのみ使用されます。

    マイケル・ジャクソンの死亡事件によって広く知られるようになった薬ですが、本来は適切な環境で使用されれば非常に安全性と有効性の高い薬剤です。

    強力な薬ほど、その効果だけでなく危険性も理解し、適切な環境で使用することが重要です。

  • なぜメトグルコ(メトホルミン)は2型糖尿病の第一選択薬なのか?作用機序・副作用を薬剤師が解説

    なぜメトグルコ(メトホルミン)は2型糖尿病の第一選択薬なのか?作用機序・副作用を薬剤師が解説

    今回の記事で解説するのは、糖尿病患者さんに処方されることが多いメトグルコ(一般名:メトホルミン)です。

    内科の処方箋を応需する薬局であれば、日常的に目にする薬の一つではないでしょうか。

    現在、メトグルコは低血糖リスクが少なく、体重増加を起こしにくいことなどから、2型糖尿病治療における第一選択薬の一つとして広く使用されています。 

    しかし、糖尿病治療の第一選択薬は昔からメトグルコだったわけではありません。

    では、なぜメトグルコが第一選択薬として推奨されるようになったのでしょうか。

    この記事では、メトグルコの作用機序や副作用を改めて整理しながら、なぜ現在の糖尿病治療で重要な位置づけとなっているのかを薬剤師の視点からわかりやすく解説します。

    また記事の最後では、患者さんへどのように服薬指導を行えばよいかについても紹介します。


    ①かつてはSU剤が2型糖尿病治療の中心だった

    現在ではメトグルコが2型糖尿病治療の中心的な薬剤として広く使用されていますが、以前からそうだったわけではありません。

    かつて、2型糖尿病治療の中心となっていたのはSU剤でした。

    代表的な薬には、アマリール(一般名:グリメピリド)やオイグルコン(一般名:グリベンクラミド)などがあります。

    SU剤が長年にわたり広く使用されてきた理由は、血糖降下作用が非常に強力だったためです。

    SU剤は膵臓に直接作用してインスリン分泌を促進するため、内服開始後の比較的早い段階から血糖値の改善が期待できます。

    そのため、「とにかく血糖値を下げること」が重要と考えられていた時代には、非常に有用な薬剤でした。

    しかし、その一方で、インスリン分泌を強力に促進することから、低血糖や体重増加といった問題もありました。

    さらに近年では、低血糖リスクが少なく、長期的な安全性にも優れた薬剤が次々と登場したことから、現在ではSU剤が新規治療の第一選択として選択される機会は大きく減りました。

    糖尿病治療の考え方を一言でまとめるなら、

    「血糖値を下げる治療」から、「安全に長く治療を続ける治療」へ変化したといえるでしょう。

    では、そのような治療の変化の中で、なぜ現在メトグルコが2型糖尿病治療の第一選択薬として広く用いられるようになったのでしょうか。

    ②メトグルコの作用機序とは?

    メトグルコはビグアナイド薬に分類される薬です。

    今回の記事では2型糖尿病治療薬としてのメトグルコに着目し、血糖降下作用を中心に解説します。

    メトグルコは1950年代から世界中で使用されている歴史の長い薬であり、安全性や有効性に関するデータが豊富に蓄積されています。

    【1】肝臓の糖新生を抑制する

    メトグルコの最も重要な作用が、肝臓での糖新生を抑制することです。

    糖新生とは、主に肝臓で乳酸やアミノ酸、脂肪組織から放出されたグリセロールなどを材料として、新たにブドウ糖を作り出す生理的な代謝経路です。

    この仕組みによって、私たちは睡眠中や空腹時でも低血糖を起こすことなく、血糖値を一定に保つことができます。

    しかし、2型糖尿病ではインスリン抵抗性やインスリン分泌低下の影響により、肝臓での糖新生が過剰になっていることが少なくありません。

    その結果、早朝空腹時血糖の上昇につながることがあります。

    メトグルコは、この過剰な糖新生を抑えることで、肝臓から血液中へ放出されるブドウ糖の量を減らし、血糖値を低下させます。

    そのため、特に空腹時血糖を改善する効果が期待できます。



    【2】筋肉で糖を利用しやすくする

    メトグルコには、インスリンが効きやすい状態に改善する作用もあります。

    2型糖尿病では、インスリンが十分に分泌されていても、その作用が弱くなっていることがあります。

    メトグルコは、この状態を改善することで、筋肉細胞へブドウ糖を取り込みやすくします。

    筋肉は体内で最も多くのブドウ糖を利用する臓器であるため、筋肉での糖利用が増えることで血糖値の改善につながります。

    【3】腸からの糖吸収を抑える

    メトグルコには、腸管を介して食後血糖の上昇を抑える作用もあると考えられています。 

    その結果、食後に急激に血糖値が上昇するのを抑える効果が期待できます。

    また近年では、メトグルコによる腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化や、GLP-1分泌促進作用なども血糖改善効果に関与している可能性が報告されています。

    このようにメトグルコは、肝臓、筋肉、腸など複数の臓器に作用することで、血糖値を改善している薬なのです。

    ③なぜメトグルコは体重が増えにくいのか?

    SU剤やインスリン製剤では体重増加が問題となることがありますが、メトグルコでは体重増加が少なく、むしろ減少することもあります。

    その理由は以下のとおりです。

    • インスリン分泌を直接増やさない

    メトグルコは、SU剤のようにインスリン分泌を直接強力に促進する薬ではありません。

    インスリンには血糖値を下げるだけでなく、余った糖を脂肪として蓄える働きもあります。

    メトグルコはインスリン分泌を過剰に促進しないため、体重増加を起こしにくいと考えられています。

    • 食欲を抑える作用がある

    メトグルコには食欲を低下させる作用があることが知られています。

    また、血糖変動を改善することで、過度な空腹感を抑える可能性も考えられています。

    • GLP-1分泌を増やす可能性がある

    近年では、メトグルコが腸から分泌されるGLP-1(インクレチン)を増加させる可能性が報告されています。

    GLP-1には食欲を抑える作用や胃内容物の排出を遅らせる作用があるため、結果として食事量の減少につながると考えられています。

    そのため、メトグルコは肥満を伴う2型糖尿病患者でも使用しやすい薬剤となっています。

    ④メトグルコの副作用と服用時の注意点

    メトグルコは安全性の高い薬として世界中で広く使用されています。しかし、服用する際には副作用や注意点について理解しておくことも重要です。

    主な副作用

    メトグルコで最も多い副作用は消化器症状です。特に服用開始直後や増量時に起こりやすいことが知られています。

    主な症状は以下のとおりです。

    • 下痢
    • 悪心(吐き気)
    • 食欲不振
    • 腹痛

    これらの症状は、多くの場合、服用を続けるうちに軽快します。また、服用タイミングを変更することで胃腸症状が軽減することもあります。ただし、症状が強い場合には医師や薬剤師へ相談するようにしましょう。

    まれだが重要な副作用:乳酸アシドーシス

    メトグルコの重大な副作用として、頻度は非常に低いものの乳酸アシドーシスがあります。

    乳酸アシドーシスとは、体内に乳酸が過剰に蓄積し、血液が酸性に傾く状態です。

    メトグルコは乳酸を利用した糖新生を抑制する作用を持つため、脱水や腎機能低下などによって、薬剤が体内に蓄積すると、まれに乳酸アシドーシスを起こすことがあります。 

    初期症状として、以下のような症状が現れることがあります。

    • 強い倦怠感
    • 吐き気・嘔吐
    • 食欲不振
    • 筋肉痛
    • 呼吸が速くなる

    非常にまれな副作用ですが、重症化すると命に関わることもあるため注意が必要です。

    メトグルコ服用時の注意点

    【1】腎機能が低下している患者

    メトグルコは主に腎臓から排泄される薬です。

    腎機能が低下している患者さんでは、腎臓から排出される薬が体内に蓄積しやすくなるため、乳酸アシドーシスのリスクが高まる可能性があります。

    eGFRが低下している場合には、投与量の調整や慎重な経過観察が必要になります。

    【2】シックデイ

    発熱、嘔吐、下痢、食欲低下などによって十分な食事や水分が摂れない状態をシックデイと呼びます。

    シックデイでは脱水が起こりやすく、腎機能が悪化することで乳酸アシドーシスのリスクが高まる可能性があります。

    そのため、食事や水分が十分に摂れない場合には、一時的にメトグルコを休薬することがあります。

    また、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかった場合も、発熱や食欲低下、脱水を伴うことがあるため注意が必要です。

    さらに夏場は熱中症による脱水にも注意しましょう。

    【3】造影CT検査前後

    ヨード造影剤を使用するCT検査では、一時的に腎機能が低下することがあります。

    これは、ヨード造影剤による腎臓の血管収縮や尿細管への直接的な毒性によって、造影剤腎症を起こす可能性があるためです。

    腎機能が低下した状態でメトグルコが体内に蓄積すると、乳酸アシドーシスのリスクが高まることから、検査前後にメトグルコを一時中止する場合があります。

    施設によって差がありますが、検査前2日間と検査後2日間の計5日間程度休薬することもあります。

    近年では、eGFRや造影剤投与量などを考慮し、休薬の必要性を個別に判断することも多くなっています。

    休薬期間は検査内容や患者さんの腎機能などによって異なるため、必ず医師や医療スタッフの指示に従うようにしましょう。

    【4】過度の飲酒

    アルコールは肝臓における乳酸の代謝を妨げるため、体内に乳酸が蓄積しやすくなります。

    さらに、アルコールには利尿作用があり、脱水を引き起こすこともあります。脱水によって腎機能が低下すると、メトグルコが体内に蓄積しやすくなり、乳酸アシドーシスのリスクが高まる可能性があります。

    そのため、メトグルコ服用中の大量飲酒や空腹時の飲酒は避ける必要があります。なお、添付文書においても、過度のアルコール摂取者は禁忌とされています。

    【5】長期服用ではビタミンB12欠乏にも注意

    メトグルコを長期間服用している患者では、ビタミンB12の吸収が低下し、欠乏を起こすことがあります。

    ビタミンB12が不足すると、貧血やしびれなどの神経症状が現れることがあるため、長期服用中は定期的な確認が推奨されています。

    ⑤まとめ・薬剤師ならどう説明する?

    メトグルコは、低血糖リスクが少なく、体重増加を起こしにくいことに加え、心血管イベント抑制効果が報告されていることや、豊富なエビデンスを有していることから、現在でも2型糖尿病治療における第一選択薬の一つとして広く使用されています。

    一方で、すべての患者さんにメトグルコが第一選択となるわけではありません。

    近年の糖尿病治療では、心不全や慢性腎臓病、肥満の有無など、患者さん一人ひとりの背景に応じて薬剤を選択することが重視されています。

    そのため、患者さんによってはSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などが優先される場合もあります。

    今後新たなエビデンスが蓄積されれば、糖尿病治療の第一選択薬の考え方が変化する可能性もあるでしょう。

    薬剤師がメトグルコを初めて服用する患者さんへ説明する際には、例えば次のような声かけが考えられます。

    • 「この薬は主に肝臓で糖が作られすぎるのを抑えることで血糖値を下げる薬です。また、人によっては体重が減ることがありますので、服用開始後は定期的に体重を測定してみるとよいでしょう。」
    • 「飲み始めは下痢や吐き気が出ることがありますが、多くは続けるうちに改善します」
    • 「食事が摂れないときや発熱・下痢が続くときは、自己判断せず医療機関へ相談してください」

    また、継続服用中の患者さんに対しては、これらの点を確認することも重要です。

    • 胃腸症状はないか
    • シックデイ時の対応を理解しているか
    • 脱水や大量飲酒をしていないか
    • 腎機能やビタミンB12欠乏のリスクはないか

    現在の糖尿病治療は、「とにかく血糖値を下げる治療」ではなく、「患者さんが安全に長く健康に生活できること」を目標に薬剤を選択する時代になっています。
    メトグルコは、そのような現代の糖尿病治療を象徴する代表的な薬剤の一つといえるでしょう。

  • 人はなぜ太るのか?脂肪が増えるメカニズムを薬剤師がわかりやすく解説

    人はなぜ太るのか?脂肪が増えるメカニズムを薬剤師がわかりやすく解説

    「食べ過ぎたら太る」

    多くの人が知っていることですが、ではなぜ食べ過ぎると脂肪になるのでしょうか。

    また、「若い頃と同じ量しか食べていないのに太るようになった」「ダイエットしているのになかなか痩せない」と感じている方もいるかもしれません。

    実は肥満は単純に食べ過ぎだけで説明できるものではなく、体内ではインスリンや脂肪細胞、さまざまなホルモンが関与する複雑な仕組みが働いています。

    もちろん基本となるのは「摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ること」ですが、その背景には医学的なメカニズムが存在します。

    仕組みを理解すると、「なぜ太るのか」「なぜ痩せにくくなるのか」が見えてきます。

    今回は薬剤師の視点から、人が太るメカニズムについてできるだけわかりやすく解説します。




    ①太る原因はカロリーオーバー

    ダイエットにはさまざまな理論がありますが、人が太る最も基本的な理由はシンプルです。

    それは、摂取カロリーが消費カロリーを上回る状態が続くことです。

    私たちが食事から摂取する三大栄養素には、それぞれ次のようなエネルギー量があります。

    この中で最も高カロリーなのが脂質です。

    脂質は糖質やタンパク質の2倍以上のエネルギーを持っているため、同じ量を食べても摂取カロリーが大きくなります。

    また、脂質は体内で中性脂肪として蓄積されやすいという特徴もあります。

    例えば、次のような食品は高カロリーなイメージを持つ方も多いでしょう

    ・揚げ物
    ・ラーメン
    ・菓子パン
    ・アイスクリーム

    これらの食品は高脂質かつ高糖質であることが多く、カロリーを過剰に摂取しやすい食品です。

    また、糖質はタンパク質と同様に1gあたり4kcalですが、糖質摂取後に血糖値が上昇し、それに反応してインスリンというホルモンが分泌されます。

    インスリンは血糖値を下げるために欠かせないホルモンですが、実は脂肪の蓄積にも深く関わっています。

    この点については後ほど詳しく解説します。

    余ったカロリーは脂肪になる

    体重の増減は、摂取カロリーと消費カロリーの差で決まります。

    摂取したエネルギーが消費されるエネルギーを上回れば、その余剰分は体脂肪として蓄積されます。

    つまり、人が太る根本的な原因は「余ったエネルギーが脂肪として蓄えられること」です。

    では、その脂肪はどのような仕組みで作られるのでしょうか。

    次に、インスリンの働きを見ていきましょう。

    ② インスリンは太るホルモン?

    糖質を摂取すると血糖値が上昇し、それに反応して膵臓からインスリンが分泌されます。

    インスリンの最も重要な役割は、血液中のブドウ糖を細胞へ取り込み、血糖値を下げることです。

    しかし、インスリンには血糖値を下げる以外の働きもあります。

    インスリンは、体内に入った栄養を「貯蔵する方向」に働くホルモンです。

    そのため、糖質を多く摂取してインスリン分泌が頻繁に起こると、体は脂肪を蓄積しやすい状態になります。

    糖質は1gあたり4kcalであり、脂質の9kcalより低カロリーです。

    しかし、糖質にはインスリン分泌を促す特徴があるため、カロリー以外にも注意する点があります。

    このような背景から、糖質摂取を減らしてインスリン分泌を抑える「糖質制限ダイエット」が広く知られるようになりました。

    ただし、インスリンは悪玉ホルモンではなく、生体機能の維持に必要なものです。

    体重は総摂取カロリーや運動量など様々な要因によって決まるため、糖質だけを極端に制限すれば必ず痩せるというものではないのです。

    では、余った糖は実際にどのような経路で脂肪へ変わるのでしょうか。

    次に、余剰エネルギーが脂肪として蓄積される仕組みについて見ていきましょう。

    ③余った糖はどこへ行くのか?

    糖質を摂取すると、まずは体を動かすエネルギーとして利用されます。

    また、余った糖は将来のエネルギー源として、肝臓や筋肉にグリコーゲン(予備エネルギー)として蓄えられます。

    しかし、グリコーゲンを蓄えられる量には限界があります。

    そのため、さらに余った糖は別の形で保存されることになります。

    その行き先が脂肪細胞です。

    肝臓では、余った糖から中性脂肪が作られます。

    作られた脂肪は、そのままでは血液中を移動できないため、VLDL(中性脂肪を運ぶ輸送トラックのようなもの)に積まれて全身へ運ばれます。

    そして最終的に脂肪細胞へ蓄積され、体脂肪となります。

    つまり、食べ過ぎた糖質は、最終的に脂肪として蓄えられることがあるということです。

    糖質は脂質より低カロリーですが、食べ過ぎれば最終的に脂肪として蓄積される点は同じです。

    ④ 太る原因は食べ過ぎだけではない

    ここまで、以下の流れで解説をしてきました。

    • カロリーオーバー
    • インスリン
    • 余った糖が脂肪になる仕組み

    しかし実際には、同じ量を食べていても太りやすい人と太りにくい人がいます。

    その違いを今からこちらに沿って説明します。

    • 加齢
    • 睡眠不足
    • 脂肪細胞から分泌されるホルモン

    ここからは、肥満を引き起こしやすくする体の変化について見ていきましょう。

    加齢により太りやすくなる理由

    「若い頃はたくさん食べても太らなかったのに、最近はすぐ体重が増える」

    そのように感じる人は少なくありません。

    加齢によって次のような変化が起こるためです。

    • 筋肉量の低下
    • 基礎代謝の低下
    • 活動量の低下

    特に重要なのが筋肉です。

    筋肉は体内で最も多くの糖を利用する臓器であり、「最大の糖処理工場」ともいえます。

    筋肉が減ると糖の消費量も低下します。

    その結果、若い頃と同じ食事量でも脂肪が蓄積しやすくなってしまうのです。

    睡眠不足で太る理由

    睡眠不足と肥満には密接な関係があります。

    睡眠が不足すると、このようなホルモン分泌の変化が起こります。

    • グレリン(食欲ホルモン)分泌上昇
    • レプチン(満腹ホルモン)分泌低下

    さらにストレスホルモンであるコルチゾールも増加します。

    その結果、次のような変化が起こります。

    • 食欲が増える
    • 高カロリーな食品を欲しやすくなる
    • 間食が増える

    つまり睡眠不足は、ダイエットに対する意志と関係なく、ホルモンの変化によって太りやすい状態を作ってしまうのです。

    脂肪細胞は「内分泌臓器」でもある

    脂肪細胞は単なる脂肪の貯蔵庫ではありません。

    実はさまざまなホルモンや生理活性物質を分泌する「内分泌臓器」としての役割も持っています。

    脂肪細胞から分泌される主な物質をまとめると次のようになります。


    レプチンは本来、「もう十分食べた」という信号を脳へ送る満腹ホルモンです。睡眠不足ではレプチンが減少することも知られています。

    一方で脂肪細胞が肥大すると、これらのホルモン分泌の変化が起こります。

    • TNF-α増加
    • IL-6増加
    • アディポネクチン減少

    すると体内で慢性的な炎症が起こり、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が生じます。

    インスリン抵抗性が起こると、体は血糖値を下げるためにより多くのインスリンを分泌するようになります。

    しかし、インスリンには脂肪を蓄積する作用もあります。

    その結果、さらに脂肪が増えやすくなってしまうのです。

    太るとさらに太りやすくなる悪循環

    肥満になると、次のような悪循環が起こります。

    このため、肥満は単なる見た目の問題ではなく、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病とも深く関わっています。

    肥満は単に「脂肪が増えた状態」ではありません。

    脂肪細胞そのものがホルモン環境を変化させ、「太るとさらに太りやすくなる」状態を作ってしまうのです。

    ⑤肥満治療薬はどこに効くのか?

    ここまで見てきたように、肥満は単純に「食べ過ぎ」だけで起こるものではありません。

    食欲を調節するホルモン、糖の代謝、脂肪の蓄積など、さまざまな仕組みが関わっています。

    現在の肥満治療薬は、こうした体の仕組みに働きかけることで体重減少をサポートします。

    代表的な薬には次のようなものがあります。


    特に近年注目されているのが、マンジャロやウゴービなどのインクレチン関連薬です。

    これらの薬は脳の食欲中枢へ作用し、自然と食事量を減らしやすくします。

    一方で、どの薬も「飲めば必ず痩せる魔法の薬」ではありません。

    肥満治療薬は、食事・運動・睡眠などの生活習慣改善を補助するための治療手段です。

    そのため、薬だけに頼るのではなく、生活習慣の見直しと組み合わせることが重要です。

    ⑥ まとめ

    ここまで、人が太る仕組みについて解説してきました。

    患者さんから「どうしたら痩せますか?」と相談された場合、私はまずこう説明します。

    太る原因は特別なものではありません。

    食べたエネルギーが、使ったエネルギーを長期間上回った結果です。

    逆に言えば、次のような小さな改善を続けることで、体重は少しずつ変化していきます。

    • 食事を少し見直す
    • 活動量を少し増やす
    • 睡眠をしっかり取る

    ちなみに体脂肪1kgは約7,000〜7,700kcalに相当するため、数日で大きく痩せることは基本的にありません。

    しかし、摂取カロリーよりも消費カロリーが200kcal多い状態を続ければ、理論上は次のような減量が期待できます。

    • 1か月で約0.8kg
    • 3か月で約2〜3kg

    ダイエットは短距離走ではなくマラソンです。

    急激な減量を目指すよりも、「続けられる生活習慣を作ること」が成功への近道です。

    完璧を目指す必要はありません。

    小さな改善を積み重ねることが、結果として大きな体重変化につながります。

    マンジャロや防風通聖散などの肥満治療薬については別の記事で詳しく解説しています。

    興味のある方は、ぜひそちらもご覧ください。

  • ステロイドで筋肉はつく?|プレドニンとアナボリックステロイドの違いを薬剤師が解説

    ステロイドで筋肉はつく?|プレドニンとアナボリックステロイドの違いを薬剤師が解説

    筋肉を大きくするために「ステロイドを使う」という話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

    一方で、病院ではプレドニンなどのステロイド薬が処方されています。

    そのため、「プレドニンを飲みながら筋トレをしたら筋肉が付きやすくなるのでは?」と思ったことがある方もいるかもしれません。

    しかし、ここには大きな誤解があります。

    筋肥大を目的として使われるステロイドと、病院で処方されるプレドニンは、同じ“ステロイド”でも作用は大きく異なります。

    今回は、プレドニンとアナボリックステロイドの違い、筋肥大のメカニズム、副作用について薬剤師が解説します。

    ①プレドニンで筋肉はつくのか?

    結論:筋肉はつかない

    むしろ長期間使用すると筋肉量が減少することもあります。

    ステロイドの定義

    ステロイドとは、ステロイド骨格(シクロペンタノヒドロフェナントレン環)を持つ物質の総称です。

    副腎皮質ホルモンや性ホルモンは、いずれもコレステロールから生合成されるステロイドホルモンです。

    つまり、「ステロイド」は薬の名前ではなく、共通した構造を持つ物質のグループ名です。

    プレドニンは何のステロイド?

    プレドニン(プレドニゾロン)は、副腎皮質ホルモンの一種である糖質コルチコイドに分類されます。

    強い抗炎症作用や免疫抑制作用を持ち、さまざまな疾患の治療に用いられます。

    • アレルギー
    • 自己免疫疾患
    • 炎症性疾患

    なぜ筋肉が減ることがあるのか

    糖質コルチコイドは、体内で糖新生を促進します。

    糖新生とは、アミノ酸などから新たにブドウ糖を作り出す仕組みです。

    その際、糖質コルチコイドは筋タンパク質の分解を促進し、放出されたアミノ酸を糖新生の材料として利用します。

    このため、プレドニン(プレドニゾロン)を飲みながら筋トレをしても、筋肥大を目的とした薬としては適していません。

    長期間・高用量で使用すると、ステロイドミオパチーと呼ばれる筋力低下や筋萎縮を生じることもあります。

    ではなぜ「筋肉がつくステロイド」が存在するのか?

    実はステロイドには複数の種類があり、筋肥大に関係するのはプレドニンとは別のステロイドです。

    次にその違いを見ていきましょう。

    ② 筋肥大に使われるステロイドとは?

    前項で解説したように、プレドニン(プレドニゾロン)は糖質コルチコイドであり、筋肉を増やす薬ではありません。

    では、筋肥大を目的として使われる「ステロイド」とは何なのでしょうか。

    まず知っておきたいのは、ステロイドにはさまざまな種類が存在するということです。

    副腎皮質ホルモンには、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドがあり、性ホルモンには、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロンがあります。

    このうち、筋肥大に大きく関わるのがアンドロゲンです。

    筋肉を増やすのはアンドロゲン

    アンドロゲンとは男性ホルモンの総称で、その代表がテストステロンです。

    テストステロンは男性らしい体つきの形成に関与するだけでなく、筋肉や骨の発達を促進する作用を持っています。

    そのため、筋トレを行う人の間では「筋肉を増やすホルモン」としてよく知られています。

    つまり、筋肥大に関与するのはプレドニンのような糖質コルチコイドではなく、アンドロゲン系のステロイドなのです。

    アナボリックステロイドとは?

    アナボリックステロイド(蛋白同化ステロイド)は、テストステロンをもとに開発された薬剤です。

    筋肉を作る作用(タンパク同化作用)を強めるように構造が改変されており、筋肉や筋力の増加を目的として使用されることがあります。

    実際にアナボリックステロイドには筋肥大作用が存在します。

    しかし、その一方で重篤な副作用も報告されており、医療目的以外での使用には大きなリスクが伴います。

    では、アナボリックステロイドはどのような仕組みで筋肉を増やすのでしょうか。

    次に、その筋肥大のメカニズムについて見ていきます。

    ③筋肥大のメカニズム

    アナボリックステロイドはどうやって筋肉を大きくするのか

    アナボリックステロイドによる筋肥大は、単純に筋肉へ栄養を送り込むことで起こるわけではありません。

    筋細胞の中では、ホルモン受容体や遺伝子発現を介した複雑な仕組みが働いています。

    アナボリックステロイドは、まず筋細胞内のアンドロゲン受容体に結合します。

    活性化された受容体は細胞核へ移動し、筋タンパク合成に関わる遺伝子の発現を促進します。

    さらに、筋肥大の司令塔とも呼ばれるmTOR経路を活性化することで、筋タンパク合成を強力に促進します。mTORは細胞内で「筋肉を作れ」という指令を出す重要なシグナル経路です。

    また、アナボリックステロイドは衛星細胞(サテライトセル)の活性化にも関与すると考えられています。

    衛星細胞は筋線維の修復や成長を担う細胞であり、その活性化によって筋肥大が促進されます。

    このようにアナボリックステロイドは、筋タンパク合成の増加と衛星細胞の活性化を通じて、筋力増加や筋肥大をもたらします。

    なぜ筋肥大効果が強くなるのか

    通常の筋トレでも、筋肉に負荷が加わることでmTORが活性化し、筋タンパク合成が促進されます。

    一方、アナボリックステロイドを使用した場合は、生理的範囲を超える強いアンドロゲン受容体刺激が加わることで、筋タンパク合成がさらに促進されます。

    そのため、ナチュラルな状態と比べて筋肥大のスピードや筋量の増加幅が大きくなり、通常では到達が難しいレベルの筋肥大が起こることがあります。

    ④アナボリックステロイドの副作用

    筋肥大効果が強い一方で、アナボリックステロイドにはさまざまな副作用が報告されています。

    ホルモンバランスの乱れ

    アナボリックステロイドを外部から投与すると、体内では「十分な男性ホルモンが存在する」と判断されます。

    その結果、脳の視床下部や下垂体からのホルモン分泌が抑制され、自身のテストステロン産生が低下します。

    そのため、以下のような副作用が起こることがあります。

    ・精巣萎縮
    ・男性不妊
    ・性欲低下
    ・勃起機能の低下

    筋肉を大きくするために使用した結果、本来のホルモン機能に悪影響を及ぼす可能性があるのです。

    女性化乳房

    テストステロンの一部は体内でエストロゲン(女性ホルモン)へ変換されます。

    テストステロン

    エストロゲン

    女性化乳房

    その結果、男性であっても乳房が発達する「女性化乳房」が起こることがあります。

    症状が進行すると自然には改善せず、手術が必要になる場合もあります。

    肝障害

    アナボリックステロイドの中でも、経口剤では肝障害が問題になることがあります。

    軽度の肝機能異常から、黄疸や薬物性肝障害までさまざまな報告があります。

    特に長期間使用や高用量使用では注意が必要です。

    心血管イベント

    近年、アナボリックステロイドによる心血管系への影響も問題視されています。

    報告されている主なものとして、これらの症状があります。

    ・高血圧
    ・脂質異常症
    ・心筋梗塞
    ・脳卒中

    筋肉は大きくなっても、血管や心臓への負担は増加する可能性があります。

    精神症状

    アナボリックステロイドは精神面にも影響を与えることがあります。

    代表的なものとして、次のような精神的副作用が見られる可能性があります。

    ・攻撃性の増加
    ・イライラ
    ・気分の変動
    ・依存

    海外では、いわゆる「ロイドレイジ(roid rage)」と呼ばれる攻撃性の増加が話題になることもあります。

    実際の報告例

    アナボリックステロイドによる健康被害は、医学論文や症例報告でも数多く報告されています。

    例えば、過去にこれらが報告されています。

    ・若年者における心筋梗塞
    ・重度の肝障害
    ・拡張型心筋症や心不全
    ・突然死

    もちろん全ての使用者に起こるわけではありませんが、「若いから安全」というわけではありません。

    また、スポーツ庁も筋肉増強剤による健康被害や個人輸入の危険性について注意喚起を行っています。

    参考:スポーツ庁「筋肉増強剤を知る」

    https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/list/jsa_00072.html


    薬剤師としての考え

    筋肥大を目的としたアナボリックステロイドの使用は、高いリスクを伴います。

    実際に肝障害や心血管イベント、不妊、精巣萎縮などの副作用が報告されており、医療目的以外での使用は推奨されません。

    筋肉を大きくする効果は確かに存在しますが、その代償として将来的な健康被害を招く可能性があります。

    日本では筋肥大のみを目的としてアナボリックステロイドを処方することは認められていません。

    薬剤師として筋肥大を目的とした安易な使用はおすすめできません。

    ⑤ステロイドで筋肥大した後は?

    やめれば副作用はなくなるのか?

    アナボリックステロイドを使用して筋肉量を増やした後、「筋肉が付いたら使用を中止すれば、副作用だけ避けられるのでは?」と考える人もいるかもしれません。

    しかし実際には、そう単純な話ではありません。

    アナボリックステロイドによる副作用は、長期間使用した場合だけに起こるものではなく、短期間の使用でも生じる可能性があります。

    また、使用を中止した後もホルモンバランスの乱れが続くことがあり、回復までに長い時間を要するケースも報告されています。

    そのため、「少しだけ使ってやめれば安全」と考えるのは危険です。

    筋肉はそのまま維持できるのか?

    また、筋肉についても、ステロイド使用中に得られた状態を永久に維持できるわけではありません。

    使用を中止すると、筋タンパク合成能やホルモン環境は徐々にナチュラルな状態へ戻っていきます。

    トレーニングを継続していても、筋量は遺伝的要因やホルモン環境に大きく左右されるため、時間の経過とともに本来の範囲へ近づいていくと考えられています。

    マッスルメモリーとの関係

    一方で、近年はアナボリックステロイドによって増加した筋核(myonuclei)が長期間残存し、再びトレーニングを行った際に筋肉が付きやすくなる「マッスルメモリー」に関与する可能性が指摘されています。

    ただし、この現象がヒトでどの程度続くのか、またどれほど有利に働くのかについては、まだ十分に解明されていません。

    そのため、「一度だけ使って筋肉を手に入れれば、その後も有利な状態が続く」と断言できる段階ではありません。

    筋肉だけを手に入れることはできない

    少なくとも、アナボリックステロイドは「筋肉だけ手に入れて、副作用は避けられる」という都合の良い方法ではありません。

    筋肥大という大きなメリットがある一方で、その裏にはホルモンバランスの乱れや健康被害のリスクが存在します。

    使用を検討する際には、筋肉だけでなく、その代償についても理解しておく必要があるでしょう。

    ⑥まとめ

    「ステロイド」と一言で言っても、その種類によって作用は大きく異なります。

    プレドニン(糖質コルチコイド)とアナボリックステロイドは、どちらもステロイド骨格を持つ物質ですが、筋肉に対する作用は正反対です。

    プレドニンは筋タンパクの分解を促進し、長期間使用では筋力低下や筋萎縮を起こすことがあります。一方、アナボリックステロイドは筋タンパク合成を強力に促進し、筋肥大を引き起こします。

    また、アナボリックステロイドの中には個人輸入で入手できるものもあります。しかし、個人輸入された医薬品は品質や成分が保証されているとは限りません。

    さらに、副作用が生じた場合でも、国内で承認された医薬品のような救済制度の対象にならない可能性があります。

    筋肥大という魅力的な効果がある一方で、その裏にはホルモンバランスの乱れや心血管イベント、不妊などのリスクが存在します。

    筋肉を大きくしたいと考える場合は、安易に薬へ頼るのではなく、適切なトレーニングや栄養管理を継続することが最も安全で確実な方法と言えるでしょう。

  • ハイチオールはなぜシミや肌荒れに使われる?|L-システインの薬理作用を薬剤師が解説

    ハイチオールはなぜシミや肌荒れに使われる?|L-システインの薬理作用を薬剤師が解説

    医療用のハイチオール(L-システイン)は、湿疹やじん麻疹、ニキビなどに用いられることがあります。

    また、ドラッグストアでは「シミ」「そばかす」「肌荒れ」などを目的としたハイチオール製品も販売されています。

    処方薬としても一般用医薬品としても、「肌によい成分」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。

    では、L-システインはなぜ肌に良いと言われているのでしょうか。

    今回は、L-システインの薬理作用をもとに、その働きを薬剤師の視点から少し深掘りして解説します。

    ①医療用とOTCの違い

    ハイチオールの主成分であるL-システインは、医療用医薬品と一般用医薬品(OTC)の両方で使用されています。

    しかし、同じL-システインを含む製品であっても、配合成分や使用目的、適応には違いがあります。

    まずは医療用とOTCの違いをみてみましょう。

    主成分の違い

    医療用のハイチオール錠の主成分はL-システインです。

    一方、一般用医薬品のハイチオールCプラスEXには、L-システインに加えてビタミンCやパントテン酸カルシウムなどが配合されています。

    そのため、OTCではL-システイン単独ではなく、複数の成分による総合的な作用が期待されています。

    適応・効能の違い

    医療用ハイチオールは、主に以下のような疾患に対して使用されます。

    • 湿疹
    • 中毒疹
    • 薬疹
    • じん麻疹
    • 尋常性ざ瘡
    • 多形滲出性紅斑
    • 放射線障害による白血球減少症

    一方、ハイチオールCプラスEXでは、以下のような効能・効果が認められています。

    • しみ、そばかす・日焼け等の色素沈着症
    • 全身倦怠
    • 二日酔
    • にきび、湿疹、じんましん、かぶれ、くすりまけ

    このように比較すると、医療用は皮膚疾患などの治療を目的としているのに対し、OTCではシミやそばかすなど、美容やセルフケアに関連する効能も含まれていることが分かります。

    目的の違い

    両者の最も大きな違いは使用目的です。

    医療用ハイチオールは、医師の診断のもとで疾患を治療することを目的として使用されます。

    一方、OTCのハイチオールは、シミや肌荒れの改善、全身倦怠の改善など、セルフケアを目的として使用されることが多い製品です。

    そのため、同じL-システインを含む製品であっても、「病気の治療」と「美容・セルフケア」という違いがあると考えると分かりやすいでしょう。

    では、なぜL-システインは湿疹やニキビだけでなく、シミや肌荒れなどにも用いられているのでしょうか。

    次に、L-システインの薬理作用について詳しくみていきます。

    ②L-システインの主な作用

    では、L-システインは体内でどのような働きをしているのでしょうか。

    SH基(チオール基)ならではの作用

    L-システインの最大の特徴は、構造中に存在するSH基(チオール基)です。

    このSH基は非常に反応性が高く、体内ではさまざまな酸化還元反応に関与しています。

    L-システインは「SH供与体」とも言われますが、これはSH基がプロトン(H⁺)や電子(e⁻)を与えて、相手を還元する働きを持つためです。

    還元とは、簡単にいうと酸化された物質を元の安定した状態へ戻す反応です。

    私たちの体内では、紫外線やストレス、喫煙などの影響によって活性酸素が発生します。活性酸素は細胞を酸化させ、さまざまなダメージの原因となります。

    L-システインはSH基を介してこれらの酸化反応に対抗し、細胞を酸化ストレスから守る働きを持っています。

    また、SH基同士は結合して「ジスルフィド結合(-S-S-)」を形成することができます。

    この結合は、髪や爪の主成分であるケラチンの立体構造を維持するうえで重要な役割を担っています。

    L-システインは単なるアミノ酸ではなく、SH基による酸化還元反応を通じて生体機能を支える重要な成分なのです。

    グルタチオン合成への関与

    L-システインの重要な役割はSH基による直接作用だけではありません。

    体内では、L-システインはグルタミン酸、グリシンとともに「グルタチオン」の材料になります。

    グルタチオンは、生体内に存在する代表的な抗酸化物質のひとつです。

    活性酸素を除去して細胞を守るだけでなく、薬物や有害物質を無毒化する解毒反応にも関与しています。

    例えば肝臓では、グルタチオンが有害物質と結合して体外へ排出しやすくする「抱合反応」を行っています。

    また、紫外線や加齢によって増加する酸化ストレスに対しても重要な防御機構として働いています。

    つまり、L-システインは自身のSH基による作用に加えて、グルタチオンの材料になることで間接的にも抗酸化作用や解毒作用を発揮しているのです。

    エネルギー代謝への関与

    L-システインは美容成分として紹介されることが多い一方で、エネルギー代謝にも関与しています。

    L-システインに由来する硫黄は、体内で補酵素であるコエンザイムA(CoA)などの生体成分の構築にも利用されます。

    CoAは糖質や脂質の代謝において重要な役割を担っており、クエン酸回路をはじめとしたエネルギー産生経路で働いています。

    私たちが食事から摂取した栄養素をエネルギーへ変換するためには、CoAが欠かせません。

    そのためL-システインは、肌への作用だけでなく、生体のエネルギー代謝を支える成分でもあります。

    一般用医薬品で全身倦怠や疲労時の栄養補給が効能として挙げられている背景には、このような代謝への関与も関係していると考えられています。



    ③なぜL-システインは肌によいのか

    ここまで、L-システインの主な薬理作用について解説してきました。

    では、それらの作用はどのようにして肌への効果につながるのでしょうか。

    活性酸素や紫外線によるダメージを軽減する

    私たちの肌は日々、紫外線やストレス、喫煙などによって活性酸素にさらされています。

    活性酸素が増えすぎると、細胞が酸化され、シミや肌荒れ、老化の原因になることがあります。

    L-システインはSH基による抗酸化作用に加え、グルタチオンの材料となることで、体内の抗酸化システムを支えています。

    その結果、活性酸素によるダメージを軽減し、肌の細胞を守る働きが期待されています。

    メラニンの排出をサポートする

    シミの原因となるメラニンは、紫外線などの刺激によって産生されます。

    通常、メラニンは肌のターンオーバーによって徐々に排出されますが、加齢や生活習慣の乱れなどによってターンオーバーが低下すると、肌に蓄積しやすくなります。

    L-システインには皮膚の代謝をサポートし、ターンオーバーを正常化する働きがあるとされています。

    そのため、すでに作られたメラニンの排出を助けることで、シミやそばかすの改善につながると考えられています。

    解毒作用によって肌環境を整える

    L-システインはグルタチオンの材料となり、体内の解毒反応にも関与しています。

    グルタチオンは肝臓などで有害物質と結合し、体外へ排出しやすくする働きを持っています。

    肌トラブルの原因はさまざまですが、生体内の防御機構や解毒機能を支えることも、健康な肌を維持するうえで重要です。

    L-システインは、このような間接的な作用によっても肌環境の維持に貢献していると考えられています。

    健康な皮膚を構成する材料になる

    L-システインはアミノ酸の一種であり、皮膚や毛髪、爪などを構成するタンパク質の材料にもなります。

    また、SH基によって形成されるジスルフィド結合は、ケラチンの立体構造を維持するうえで重要な役割を担っています。

    このためL-システインは、抗酸化作用だけでなく、皮膚そのものを構成する成分としても重要な役割を果たしています。

    ただし、L-システインを服用したからといって、すぐにシミが消えたり肌がきれいになったりするわけではありません。

    肌のターンオーバーには時間がかかるため、効果を実感するまでには数か月程度かかることもあります。

    そのため、短期間での変化を期待するのではなく、継続的なケアの一つとして考えることが大切です。

    ④まとめ

    L-システインの作用の中心は、SH基(チオール基)による酸化還元反応です。

    また、グルタチオン合成にも関与することで、抗酸化作用や解毒作用を発揮し、肌の健康維持をサポートしています。

    その結果として、シミや肌荒れなどへの効果が期待されています。

    なお、L-システインは美容だけでなく、疲労回復や二日酔い対策、解毒機構にも関与する重要なアミノ酸です。

    アセトアミノフェン中毒時には、L-システインの誘導体であるアセチルシステインが解毒治療に用いられます。

    このようにL-システインは、美容成分としてだけでなく、生体内の抗酸化作用や解毒機構を支える重要なアミノ酸です。

    ハイチオールを理解する際は、「シミに効く成分」というだけでなく、その背景にある薬理作用にも注目してみると、より深く理解できるでしょう。

  • マンジャロで本当に痩せる?美容目的で使う前に知りたい効果・副作用・費用を薬剤師が解説

    マンジャロで本当に痩せる?美容目的で使う前に知りたい効果・副作用・費用を薬剤師が解説

    「マンジャロって本当に痩せるの?」

    SNSや美容クリニックで話題になっているマンジャロ(一般名:チルゼパチド)

    確かに、体重減少が報告されている薬ではありますが、もともとは糖尿病の治療薬として開発されたものです。

    • なぜ痩せるのか
    • どれくらい痩せるのか
    • 副作用や費用は?

    こうした疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。

    この記事では、薬剤師の立場から美容目的で使用する前に知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。

    ① マンジャロとは?

    まず、マンジャロとはどのような薬なのかを下の表にまとめています。

    GLP-1受容体の刺激により、血糖値に応じたインスリン分泌が促進され、血糖値が低下します。

    また、胃の動きをゆっくりにすることで満腹感が持続し、食欲を抑える作用があります。

    さらにGIP受容体の刺激は、インスリン分泌を促進するだけでなく、GLP-1の作用を補強することで食欲調節やエネルギー代謝に関与し、結果として体重減少に寄与すると考えられています。

    マンジャロはもともと2型糖尿病治療薬として開発された薬です。

    既存の糖尿病治療薬はGLP-1受容体への作用のみでしたが、マンジャロの最大の特徴はGLP-1受容体だけでなくGIP受容体にも作用することで、より血糖低下作用やダイエット効果に期待できることです。

    これらのホルモンは、食事を摂取した際に腸から分泌されるホルモンで、次のような働きがあります。

    ・血糖値を安定させる

    ・満腹中枢に作用し満腹感を強める

    ・胃の動きをゆっくりにする

    こうした作用によって食事量が自然と減り、体重減少につながる可能性があるため、現在は美容クリニックなどでもダイエット目的で使用されることがあります。

    ② マンジャロはなぜ痩せるのか

    マンジャロで痩せる最大の理由は、食欲が自然に減ることです。

    その薬理作用を詳しく解説していきます。

    マンジャロが作用する2つのホルモン受容体

    マンジャロによって体重が減少する理由を理解するためには、まず「インクレチン」というホルモンについて知る必要があります。

    インクレチンとは、食事を摂取したときに小腸から分泌される消化管ホルモンの総称で、主に先ほども名前が出ているこちらの2種類があります。

    • GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)
    • GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)

    これらのホルモンの特徴は、血糖値に応じてインスリン分泌を調節する「血糖依存的作用」を持つことです。

    つまり、血糖値が高いときにはインスリン分泌を促進しますが、血糖値が低いときには過剰に作用しにくいため、糖尿病薬のリスクである低血糖を起こしにくいという特徴があります。

    また、GLP-1とGIPは分泌される場所が異なることも重要なポイントです。

    • GIPは小腸上部(十二指腸・空腸)のK細胞から分泌される
    • GLP-1は小腸下部(回腸)のL細胞から分泌される

    なお、GIPは以前、脂肪の蓄積を促す「肥満ホルモン」として考えられていた時期もありました。

    しかし、近年の研究により、GLP-1とともに体重減少に関わる作用を持つことが分かってきています。

    マンジャロは、このGLP-1受容体とGIP受容体の両方に作用する薬剤です。

    このような薬剤はデュアルインクレチン受容体作動薬とも呼ばれています。

    GLP-1受容体作動薬は以前から糖尿病治療薬として使用されてきましたが、マンジャロはGIP受容体にも同時に作用する点が大きな特徴です。

    GLP-1とGIPの主な作用を、次の表にまとめました。

    表で示したように、GLP-1とGIPはそれぞれ異なる作用を持っていますが、マンジャロではこれらの作用が同時に働くことが重要なポイントです。

    マンジャロの作用を一言でまとめると、次の3つです。

    • 食欲が抑えられる
    • 満腹感が持続しやすくなる
    • 食後血糖の急激な上昇が抑えられる

    血糖値が急激に上昇すると、その後インスリン分泌によって血糖値が急激に低下し、強い空腹感を感じることがあります。

    いわゆる血糖値スパイクと呼ばれる状態です。

    マンジャロは食後血糖の上昇を穏やかにすることで、このような血糖値の大きな変動を抑え、空腹感が起こりにくい状態をつくります。

    さらに満腹感が持続しやすくなるため、自然と食事量が減少し、結果として体重減少につながると考えられています。

    実際どれくらい痩せるのか

    実際の体重減少については、製造販売元であるイーライ・リリーが実施した「SURMOUNT-1試験」で検証されています。

    72週間の投与において、体重は平均で約15〜21%減少し、治療を継続できた患者では最大約22.5%の減少が報告されています。

    用量別では、5mgで約15%、10mgで約19.5%、15mgで約20.9%と、用量依存的に減量効果が高まる傾向が確認されています。

    ただし、これらは臨床試験の結果であり、実際の効果には個人差がある点には注意が必要です。

    出典:イーライ・リリー社資料
    https://mediaroom.lilly.com/PDFFiles/2024/24-27_com.jp.pdf


    ③ 美容目的で使う場合の費用

    マンジャロを美容目的で使用する場合は、保険適用外(自由診療)となります。

    費用の目安としては、月あたり約2万〜10万円程度です。

    費用はクリニックごとに異なり、薬剤料・診察料・管理料などが含まれます。

    このように価格に幅がある理由は、使用する用量によって費用が大きく変わるためです。一般的に、高用量になるほど使用量が増えるため、費用負担も大きくなる傾向があります。

    目安としての費用は以下の通りです。

    • 低用量(2.5〜5mg):月2万〜4万円前後 
    • 中用量(7.5〜10mg):月4万〜7万円前後 
    • 高用量(12.5〜15mg):月7万〜10万円前後  

    処方を受けられる場所としては、これらの病院があります。

    • 美容クリニック 
    • オンライン診療 
    • 内科や肥満外来などの一部医療機関  

    なお、すべての医療機関で美容目的の処方を行っているわけではないため、事前に確認が必要です。

    ④ 副作用とリスク

    よくある副作用

    比較的よくみられるのは、以下のような消化器症状です。

    これは、胃の動きがゆっくりになる作用などによって起こると考えられています。

    • 吐き気
    • 下痢
    • 便秘
    • 胃の不快感

    これらの副作用は、多くの場合、体が慣れることで徐々に軽くなることがあります。

    ただし、症状が強い場合や長く続く場合は、医師へ相談することが大切です。

    重大な副作用

    頻度は高くありませんが、以下のような重大な副作用が報告されています。

    • 急性膵炎

    強い腹痛や背中の痛み、吐き気などがみられることがあります。

    • 低血糖

    冷や汗や動悸、めまい、ふらつきなどの症状があらわれることがあります。

    • アナフィラキシー

    じんましん、息苦しさ、顔や喉の腫れなどの症状が急にあらわれることがあります。

    • 腸閉塞(イレウス)

    強い腹痛、腹部の張り、吐き気や嘔吐などがみられることがあります。

    そのほか、胆嚢炎や胆管炎、胆汁うっ滞性黄疸などが報告されていますが、頻度は高くありません。

    吐き気がひどく水分や食事がとれない場合、激しい下痢が続き脱水症状がある場合、強い腹痛が続く場合、または注射部位の腫れや赤みが強い場合は、早めに医療機関へ相談することが大切です。

    ⑤ 使用する際の注意点(生活習慣・注射方法)

    マンジャロは正しく使用すれば効果が期待できる一方で、使い方によっては副作用が出やすくなることもあります。

    安全に使用するために、以下のポイントを押さえておきましょう。

    食事で気をつけること

    消化器症状を悪化させないために、以下のような食事には注意が必要です。

    • 脂っこい食事
    • 甘いジュースやスイーツ
    • 暴飲暴食

    マンジャロの作用により胃の動きがゆっくりになるため、食べ過ぎは症状を悪化させる可能性があります。

    これらは胃腸への負担を増やし、吐き気や下痢などの症状を悪化させることがあります。

    避けるべき行動

    次のような行動は、副作用(特に低血糖など)のリスクを高める可能性があります。

    • 過度な食事制限
    • 多量の飲酒
    • 食事を全く摂らない

    特に、急激な体重減少や極端な食事制限が続くと、胆石のリスクが高まる可能性も指摘されています。

    注射の注意点

    マンジャロは皮下注射で使用します。

    注射部位は以下の通りです。  

    • 腹部
    • 太もも
    • 二の腕

    同じ場所に繰り返し注射すると皮膚トラブルの原因になるため、毎回部位を変えることが大切です。

    また、使用方法に不安がある場合は、自己判断せず医師や医療機関に相談することが重要です。

    ⑥ まとめ

    マンジャロは、もともと糖尿病の治療薬として開発された薬であり、食欲を抑えたり胃の動きをゆっくりにしたりすることで、結果として体重が減ると考えられています。

    ただし、副作用のリスクや費用負担、体質による個人差などもあるため、使用には注意が必要です。

    また、使用を中止すると食欲が戻り、体重が戻る可能性もあります。

    ダイエットを成功させるためには、食事や生活習慣の改善をあわせて行うことが重要です。

    マンジャロは医師の判断のもとで使用される医薬品です。

    無理なダイエット目的で安易に使用するのではなく、まずは医療機関で相談し、自分に合った方法を選ぶことが大切です。

  • 【薬剤師が解説】ビタミンCの本当の効果|美容・免疫・疲労回復まで仕組みからわかる完全ガイド

    「ビタミンC=美白や美容のための栄養素」

    そんなイメージを持っている方は多いかもしれません。

    しかし実際のビタミンCは、肌だけでなく、血管、免疫、ホルモン、代謝など、体のあらゆる機能を支える“基礎インフラ”のような存在です。

    不足すると、肌トラブルだけでなく、疲れやすさや回復力の低下といった不調にも関わることが知られています。

    また医療現場では、皮膚疾患や貧血治療、回復期の栄養補助など、さまざまな場面で処方薬としても使用されています。

    この記事では、薬剤師の視点から、

    「なぜビタミンCが体に必要なのか」を仕組みからわかりやすく解説します。

    • ビタミンCの本当の働き
    • 美容・健康への科学的な影響
    • 効率のよい摂取方法
    • 医療現場での使われ方

    読み終えるころには、ビタミンCが「特別な栄養素」ではなく、毎日の体調を支える“土台”である理由が理解できるはずです。

    まずは、ビタミンCの基本的な性質と生理作用を理解することで、その美容効果や健康への影響がどのように生まれるのかを整理していきます。

    ビタミンCとは

    ビタミンCの特徴と生理作用

    ビタミンC(アスコルビン酸)は人間にとって重要な栄養素でありながら、体内で合成することができません。

    そのため、食事やサプリメントからの摂取が必須です。

    ビタミンC(アスコルビン酸)は小腸で吸収され、特にストレスや代謝の活発な副腎、脳、肝臓、眼の水晶体、白血球に高濃度で分布・貯蔵されます。

    構造と特徴

    構造式を見るとわかりますが、ビタミンCは非常に酸化されやすい構造をしています。

    特に、五員環に付いている水酸基(–OH)に注目すると、この水酸基が酸化されやすく、H(水素)が外れやすいのです。この性質こそが、後述する「抗酸化作用」の正体となります。

    ビタミンCの主な生理作用

    ビタミンCの働きは多岐にわたりますが、特に重要なのは以下の点です。

    【1】コラーゲン合成に必須  

    コラーゲンは、体内で皮膚・血管・骨・軟骨の強度を保つ重要なタンパク質です。  

    食事から摂取したコラーゲンは、いったん体内でアミノ酸に分解され、その後あらためてコラーゲンとして合成されます。  

    そのため、摂取したコラーゲンがそのまま体内で利用されるわけではありません。

    コラーゲンは、3本のペプチド鎖が複雑に絡み合った「三重らせん構造」をしており、この構造を作る過程でビタミンCが酵素反応を助ける重要な役割を果たします。

    つまり、ビタミンCが十分にあることでコラーゲン合成はスムーズに進みますが、ビタミンCが不足すると、コラーゲンの合成が滞ってしまいます。

    【2】抗酸化作用

    体内で活性酸素が過剰に生成されると、その酸化作用により老化(シミ・シワ)や動脈硬化、がん、糖尿病などのリスクを高めることが知られています。

    ビタミンCは、不安定で酸化力の強い活性酸素に電子を1つ提供し、還元して安定化させる働きを持ちます。

    これにより紫外線などによる酸化ダメージを軽減し、シミやシワの予防に寄与すると考えられています。

    また、血中のLDLコレステロールの酸化を抑制し、血管内皮へのダメージを軽減することで、動脈硬化の予防にも関与します。

    さらに、コレステロールから胆汁酸が合成される過程にもビタミンCが関与するとされ、脂質代謝の維持にも関わっています。

    加えて、ビタミンEなど他の抗酸化物質が酸化された際には、それらを還元して再活性化させる働きもあり、体内の抗酸化ネットワークを支える重要な役割を担っています。

    【3】免疫機能の向上

    白血球(好中球やリンパ球)の内部には、ビタミンCが血中よりも高濃度で存在しています。

    ビタミンCは、白血球の遊走能や貪食能をサポートし、病原体に対する防御機能の維持に関与し、免疫反応の過程で発生する活性酸素から白血球自身を保護する抗酸化作用も担っています。

    感染症や強いストレス状態では体内のビタミンCが消費されやすくなることが知られており、不足しないよう日常的に摂取することが重要です。

    なお、ビタミンCの補給により風邪の発症を完全に防げるわけではありませんが、一般集団では予防効果は限定的ですが、強い運動負荷や寒冷環境下では発症率低下が報告されています。

    【4】鉄の吸収促進

    ビタミンCは、吸収されにくい非ヘム鉄(Fe³⁺)を、吸収されやすい二価鉄(Fe²⁺)へと還元する働きを持っています。

    野菜や穀物、豆類に含まれる非ヘム鉄はそのままでは吸収率が低いですが、ビタミンCと一緒に摂取することで吸収率が高まります。

    そのため、鉄欠乏性貧血の治療においては、鉄剤とビタミンCを併用することがあります。

    【5】ホルモン合成の補助

    ビタミンCは、体内でホルモンや神経伝達物質を作る際に必要な補助因子として働きます。

    ストレスを感じると、副腎から分泌されるコルチゾールなどのストレス対抗ホルモンの生成にビタミンCが使われるため、体内での消費量が増えると考えられています。

    また、脳や神経ではドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の合成にも関与しており、気分や集中力の維持にも関係します。

    さらに、セロトニンや睡眠ホルモンであるメラトニンの生成にも関わることから、ストレス応答や睡眠リズムを支える栄養素の一つとされています。

    ビタミンCが不足すると、これらのホルモンや神経伝達物質の働きが十分に保たれず、疲れやすい、ストレスに弱くなる、気分の落ち込み、集中力低下、睡眠の質の低下などの不調が起こりやすくなる可能性があります。

    【6】生体異物の代謝・解毒をサポート

    ビタミンCは、体内に入った薬物や汚染物質、重金属などの「生体異物(ゼノバイオティクス)」を、体外へ排出しやすくする解毒過程を支える働きがあると考えられています。

    これらの異物は主に肝臓で代謝されますが、その中心となる酵素が、シトクロームP450(肝臓で薬や有害物質を分解する酵素)です。ビタミンCは、この酵素系の働きを維持し、異物の代謝がスムーズに行われる環境を支える役割を担っています。

    また、消化管内で発生する可能性のあるニトロソアミンなどの発がん性物質の生成を抑える働きも報告されています。

    そのためビタミンCは、体内に不要な物質を溜め込みにくくし、日常的な解毒機能を支える栄養素の一つと考えられています。

    ② ビタミンCの美容効果

    メラニン生成の抑制

    ビタミンCは、メラニン生成に関与する酵素「チロシナーゼ」の活性を抑制します。

    これにより、以下の効果が期待できます。

    • シミ・そばかすの予防
    • 肌の明るさを保つ(美白効果)

    チロシナーゼは、メラノサイト(色素細胞)内でメラニン生成を促進する酵素です。

    メラニンは本来、紫外線などの刺激から肌を守る重要な防御機構ですが、紫外線刺激やターンオーバーの乱れによって過剰に生成・蓄積すると、シミや黒ずみ、色素沈着の原因となります。

    多くの美白成分は、このチロシナーゼの働きを抑えることで、メラニンの過剰生成を防ぎ、肌を明るく保つ作用を示します。

    ただし、ビタミンCは既にできたシミを完全に消すものではなく、主に新たなメラニン生成を抑える働きが中心です。そのため、継続的なケアとして取り入れることが重要とされています。

    コラーゲン生成が促進されるとどうなる?

    体内でコラーゲンが十分に維持されると、組織の構造が安定し、皮膚や血管などの機能が健やかに保たれます。

    コラーゲンは特に皮膚の真皮層に多く存在し、網目状の構造を作ることで肌の土台を支えています。この構造が保たれることで、

    • 肌のハリ・弾力の維持
    • 小じわの予防
    • 水分を保持しやすい状態の維持
    • 傷の治りやすさの維持

    などにつながります。

    また、コラーゲンは血管や関節、骨にも存在しており、体全体のしなやかさや強度の維持にも関与しています。

    加齢や紫外線、酸化ストレスによってコラーゲンは徐々に減少・劣化するため、体内で正常なコラーゲン代謝が保たれることが、肌や身体機能の維持に重要と考えられています。

    皮脂抑制・ニキビ予防

    ビタミンCには皮脂分泌を穏やかに調整する作用があり、ニキビ予防にも関与します。

    ビタミンCは抗酸化作用により皮脂の酸化を防ぎ、炎症を起こしにくい状態を保ち、皮脂量を適度に抑えることでアクネ菌の増殖を抑制し、ニキビができにくい肌環境づくりに寄与します。

    さらに、コラーゲン合成をサポートすることで毛穴周囲の皮膚構造を整え、毛穴の目立ちにくさにも関与すると考えられています。

    その結果、以下のような効果が期待されます。

    • ニキビの予防
    • 毛穴の目立ちにくさ
    • 肌荒れの改善サポート

    ただし、重症ニキビでは外用薬や内服治療が必要となるため、症状が続く場合は皮膚科受診が推奨されます。

    ターンオーバーの正常化

    ターンオーバーとは、皮膚の細胞が生まれてから角質となり、自然に剥がれ落ちるまでの「肌の生まれ変わり」のサイクルです。

    健康な成人では約28日周期ですが、加齢や紫外線、睡眠不足、栄養不足などにより年齢とともに遅くなる傾向があります。

    ビタミンCは抗酸化作用によって肌細胞を酸化ストレスから守り、正常な細胞分裂と再生環境をサポートし、ターンオーバーの乱れを整える働きが期待されます。

    ターンオーバーが整うと古いメラニンが排出されやすくなり、くすみ改善や肌のキメ向上につながります。一方、乱れると角質が蓄積し、シミ・くすみ・ニキビなどの肌トラブルが起こりやすくなります。

    ③ 欠乏症・過剰症

    欠乏症

    ビタミンCが著しく不足すると、「壊血病(かいけつびょう)」と呼ばれる欠乏症を引き起こします。壊血病ではコラーゲン合成が低下するため、歯肉出血や皮下出血、創傷治癒遅延などがみられます。

    一方、現代では典型的な壊血病はまれですが、診断名がつかない程度のビタミンC不足でも、以下の症状が現れることがあります。

    • 傷が治りにくい
    • 疲労感・だるさ
    • 免疫機能の低下(風邪をひきやすい)

    過剰症

    ビタミンCは水溶性ビタミンのため、余分な量は尿中に排泄され、通常の食事で過剰になる心配はほとんどありません。

    ただし、サプリメントなどで1日2,000mg以上を摂取すると、下痢・腹痛・吐き気などの消化器症状が起こることがあります。

    また、尿路結石のリスクが高まる可能性もあり、特に腎機能障害のある方は注意が必要です。

    ④ ビタミンCの摂取量と摂取方法

    食事摂取基準

    以下のビタミンC 食事摂取基準の表を参考にされてください。


    推奨量を日常的な摂取目標の目安とすることが望ましいです。


    令和元年の国民健康・栄養調査より日本人のビタミンC摂取量は平均93.5㎎とされており、推奨量をやや下回る数字です。

    しかし、飲酒の習慣のある人や喫煙者、感染症にかかっている方等はビタミンCが消費されてしまうので、より多くの摂取の必要がある場合があります。

    また、偏食や野菜不足の方はビタミンCが不足している可能性が十分にあります。

    さらには妊婦・授乳婦、ストレスを感じている人、美容・健康を意識する方は積極的な摂取を意識するとよいでしょう。

    効率的なビタミンCの摂り方(吸収率を高める食べ方・飲み方)

    ビタミンCは体内で重要な働きをしますが、性質上失われやすい栄養素でもあります。主な特徴は次のとおりです。
    これらの性質を理解すると、ビタミンCを無駄なく摂取するポイントが分かります。

    • 水溶性ビタミン:水に溶けやすく、洗浄や調理中に流出しやすい
    • 熱や空気に弱い:長時間の加熱や酸素への曝露で分解されやすい
    • 体内に蓄積されにくい:余剰分は尿中へ排泄されてしまう


    そのため、以下のような工夫をすると効率よく摂取できます。

    • 野菜や果物は生食、または短時間加熱を意識する
    • 水にさらしすぎない(切った後の長時間の流水は避ける)
    • スープや味噌汁など、溶け出した栄養ごと摂れる調理法を活用する
    • 一度に大量摂取せず、1日数回に分けて摂取する

    ビタミンCは小腸で能動輸送によって吸収されますが、一度に大量に摂取すると吸収率が低下します。

    さらに水溶性なので体内に蓄積されないため、数回に分けて摂取する方が効率よく体内に取り込まれます。

    また、ビタミンCサプリメントは弱酸性のため、空腹時に摂取すると胃部不快感を生じることがあります。

    吸収効率と胃への負担の両面から、食後の分割摂取が推奨されます。

    ビタミンCが多い食品

    ビタミンCが多く含まれる野菜と果物を記載しています。
    可食部100gあたりの含有量を示していますが、調理法や食材の部位、季節などによって多少前後します。

    【1】ビタミンCが多い野菜

    • 赤ピーマン (170㎎)
    • 黄ピーマン (150㎎)
    • ブロッコリー (140㎎)
    • パセリ (120㎎)
    • 菜の花 (110㎎)
    • ケール (81㎎)
    • ゴーヤ (76mg)
    • ピーマン (76㎎)
    • キャベツ (41㎎)
    • 小松菜 (39㎎)
    • ほうれん草 (35㎎)
    • えだまめ (27㎎)

    【2】ビタミンCが多い果物

    • アセロラ (800~1700㎎)
    • 黄色キウイ (140㎎)
    • レモン (100㎎)
    • 緑キウイ (71㎎)
    • 柿 (70㎎)
    • あけび (65㎎)
    • いちご (62㎎)
    • オレンジ (60㎎)
    • かぼす果汁 (42㎎)
    • ゆず果汁 (40㎎)
    • なつみかん (38㎎)
    • グレープフルーツ (36㎎)
    • ライチ (36㎎)
    • みかん (32㎎)

    このようにビタミンCは野菜や果物に豊富に含まれており、バランスの良い食事を心がければ、十分な量を摂取することが可能です。

    果物や野菜以外にも、実はイモ類にもビタミンCがあり、じゃがいもやサツマイモにも100gあたり約30㎎前後のビタミンCが含まれています。

    野菜や果物との違いは、イモ類に含まれるビタミンCはデンプンに守られているため、加熱しても失われにくいという特徴があります。

    フライドポテトや焼きイモにしても、調理条件によりますが、比較的多くのビタミンCが保持されることが知られています。

    日常的には、特定の食品に偏るよりも、野菜、果物、イモ類を組み合わせて摂取することが、安定したビタミンC補給につながります。

    ⑤ビタミンCの処方薬と使われ方

    主な処方薬と特徴

    【1】アスコルビン酸(ビタミンC製剤)

    最も基本的なビタミンC製剤。ビタミンC補充や抗酸化作用を目的として幅広く使用される。

    【2】ハイシー

    アスコルビン酸を主成分とする製剤で、ビタミンC補給や皮膚疾患や代謝障害の補助療法などに用いられる。

    【3】シナール配合錠

    アスコルビン酸に加えて、パントテン酸カルシウム(ビタミンB5)を含有。

    皮膚代謝のサポート目的で、にきび・色素沈着・肝斑などに処方されることが多い。

    【4】アスコルビン酸注射・点滴製剤

    経口摂取が困難な場合や、術後・重症患者・栄養管理目的などで使用される。
    美容目的等で使用されることもある。

    どんな疾患で処方される?

    【1】ビタミンC欠乏症(壊血病)

    現在ではビタミンCの顕著な欠乏は稀ですが、以下の状況で発症リスクがあります。

    • 栄養不足・偏食
    • 妊娠・授乳期
    • 高熱や炎症性疾患
    • 甲状腺機能亢進症
    • 長期の下痢
    • 手術後・外傷・熱傷(やけど)など

    ビタミンC欠乏により歯肉出血、皮下出血、創傷治癒遅延などの症状が出る場合があります。

    【2】皮膚疾患(補助療法)

    • にきび
    • 湿疹・皮膚炎
    • 炎症後色素沈着
    • 肝斑

    ビタミンCの抗酸化作用やメラニン生成抑制作用を目的として処方されます。

    ※単独で治す薬ではなく、外用薬や他の内服薬と併用されることが一般的です。

    【3】鉄欠乏性貧血の補助療法

    ビタミンCは鉄を吸収されやすい形(Fe³⁺→Fe²⁺)へ変換するため、鉄剤と併用されることがあります。

    なお、日本で使用されている多くの経口鉄剤はすでに二価鉄製剤ですが、ビタミンCは鉄の溶解性を高めることで吸収をサポートすると考えられています。

    実際の臨床では、このような併用例があります。

    ・フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)

    ・ビタミンC製剤

    このような処方は鉄吸収効率の向上を目的としています。

    【4】その他(代謝・回復補助)

    ビタミンCは体内のさまざまな代謝反応やストレス応答に関与しており、全身状態の回復をサポートする目的で処方されることがあります。

    • 薬物中毒時の補助療法

    ビタミンCの抗酸化作用により、薬物や毒性物質によって生じる酸化ストレスの軽減を目的として使用されることがあります。

    • 副腎機能低下時の補助

    ビタミンCは副腎に高濃度に存在し、ストレス時には消費量が増加すると考えられています。そのため、副腎機能低下や強いストレス状態では補助的に用いられる場合があります。

    • 術後、感染症、消耗状態

    手術後や感染症、発熱などでは体内の酸化ストレスや栄養消費が増加します。回復期の栄養補助としてビタミンCが処方されることがあります。

    ハイシーなどのビタミンC製剤は、このような全身状態の回復を目的として使用されることがあります。

    なお、同じビタミンC製剤でもシナールとハイシーでは適応や使用目的が一部異なります。

    皮膚代謝に関与するパンテトン酸を配合したシナールは主に皮膚症状の改善目的で用いられることが多く、比較的高用量のビタミンC補給を目的としてハイシーは、代謝補助や全身状態の改善を目的として使用されることが多いという特徴があります

    補足:ビタミンCは「補助療法」で使われることが多い

    ビタミンCは主要な治療薬というより、体の回復や代謝をサポートする補助薬として処方されるケースが多いのが特徴です。

    特に皮膚治療では即効性は乏しく、効果判定には時間が必要です。

    皮膚のターンオーバー周期(約28日前後)を目安に、一定期間継続して服用することが勧められる場合があります。

    また、美容目的のみの場合は保険適用外となり、自費診療となることもあります。

    ⑥ まとめ

    ビタミンCは「美白のための特別な栄養素」というよりも、体のさまざまな機能を支える“土台”となる存在です。

    肌、血管、骨、免疫、代謝・・・

    これらすべてに関わるからこそ、 不足しないことが何より重要です。

    まずは、普段の食事、偏食や生活習慣を見直し、 毎日安定して摂れているかを意識してみてください。

    また、他の記事でもビタミンに関する投稿を行っております。

    興味がある方是非ご覧になってください。

  • 気管支喘息は成長とともに治る?〜小児喘息の緩解と再発リスクを薬剤師が解説〜

    結論から言うと、気管支喘息は成長とともに症状が落ち着いてくるケースが多い病気です。

    特に小児期に発症する喘息では、思春期前後から成人にかけて症状が軽くなったり、発作がほとんど出なくなったりする方も少なくありません。

    ただし、すべての人が必ず治るわけではなく、再発する可能性もあるため、正しい知識を持って付き合っていくことが大切です。

    今回は「なぜ小児喘息は成長とともに落ち着くことがあるのか」「どんな気管支喘息が緩解しやすいのか」「再発リスクはあるのか」を中心に解説します。

    ①気管支喘息の種類と特徴(症状と罹患リスクが高い患者層)

    気管支喘息には、子どもに多いタイプや成人に多いタイプ、薬や運動などの外的要因がきっかけで起こるタイプなど、さまざまな種類があります。

    【1】アトピー型喘息

    ・IgE抗体が関与するアレルギー反応から症状が現れる喘息

    ・ダニ、ハウスダスト、花粉などが原因

    ・小児喘息の多くがこのタイプ

    ・アトピー素因などアレルギー体質の人に多い

    【2】非アトピー型喘息

    ・IgEが関与せず、アレルギー以外の要因が引き金となる

    ・感染、冷気、煙、ストレスなどが誘因

    ・小児期に発症することは比較的少なく、成人発症が多い

    【3】小児喘息

    ・小児喘息とは「小児期に発症した気管支喘息」の総称

    ・小児喘息の中でも約7~9割がアトピー型喘息であり、これが今回のテーマの中心

    ・成長とともに緩解しやすい特徴がある

    【4】咳喘息

    ・咳のみが続き、喘鳴がない

    ・成人に多い

    ・気管支拡張薬により咳症状が改善する

    ・放置すると典型的な気管支喘息へ移行するリスクがある

    【5】アスピリン喘息

    アスピリン喘息は症状が重く、命に関わる危険性もあるので、症状が重いと感じたら医療機関へ連絡するか、救急車を呼んでください。

    アスピリン喘息の既往がある方は、アスピリン(バイアスピリン含む)やNSAIDsは禁忌となります。

    ・解熱鎮痛薬(NSAIDs)で発作を起こす

    ・成人発症がほとんど

    ・小児ではまれ

    ・激しい喘息発作(呼吸困難、喘鳴、咳)と強い鼻症状(鼻づまり、鼻水)が数十分から数時間で現れる

    ・鼻ポリープや慢性副鼻腔炎を合併しやすい

    【6】運動誘発喘息

    ・運動後に咳や息切れが出る

    ・喘息の一症状として現れることが多い

    ・医師の指導のもと適切な治療を行えば運動することは可能

    ②小児喘息が成長に伴って緩解していく流れ

    小児喘息の発症時期

    まず、小児喘息患者は3歳までにその60%が、6歳までに90%が発症すると言われていますが、乳児期(0歳)で小児喘息と診断されることもあります。

    小児喘息が良くなる人の割合

    報告により差はありますが、約50〜70%が思春期〜成人までに症状が軽快または消失すると言われています。

    緩解後に医師の指示のもと治療を中断し、5年以上症状が出ない状態を一般的に「治癒」といい、これを目標に治療を続けることが大切です。

    ただし、症状が重い場合やアレルギー体質(アトピー素因)の傾向にある方は、成人になっても喘息症状がある場合が少なくありません。

    なぜ成長とともに良くなるのか?

    【1】 気管支が成長して太くなる

    子供の細い気管支に比べ、大人の太い気管支は少しの炎症では狭くなりにくく喘息症状が出にくくなります。

    【2】免疫バランスの変化

    成長とともに免疫系が成熟し、アレルゲンやウイルスに対する過剰反応が少なくなります。

    【3】感染に強くなる

    風邪などの感染症をきっかけにした喘息症状が悪化するケースは減少します。

    ③再発リスクや成長後の注意点について

    症状が落ち着いたあとや、成人後も再発の可能性はゼロではありません。

    再発のきっかけ

    ・強いストレスや疲労

    ・環境変化(引っ越し、職場)

    ・アレルゲン曝露

    ・喫煙・受動喫煙

    成長してから症状が落ち着いた後も、アレルゲンや誘引物質を避けることは大切です。

    体の成長や月経などに関係するホルモンの影響

    女性ホルモンの影響が強いとされる場合は、内科・アレルギー科と婦人科など複数の診療科が連携し、ホルモンバランスを考慮した治療が望ましい場合もあります。

    ・女性は月経周期や更年期の影響で喘息症状が出やすくなる

    ・妊娠はホルモン変化に加え、横隔膜への圧迫が呼吸を浅くし、喘息悪化のリスクがある

    ・男性ホルモンも喘息に影響があるとされるが、思春期以降は男性の方が有病率は低い

    高齢期の注意点

    ・免疫力低下から風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症が発作要因となる

    ・喘息とCOPDの鑑別が重要

    ・喫煙歴があるとCOPDリスクが上昇

    ④まとめ

    小児喘息は、成長とともに症状が落ち着いてくることが多い病気です。

    ただし、自然に治るだろうと自己判断で治療を中断してはいけません。

    自己判断で治療を中止してしまうと、自覚症状のない慢性的な炎症により、気道のリモデリングが起こることがあります。

    気道のリモデリングとは炎症のため気道が損傷し修復される過程を繰り返し、気道の壁が厚く硬くなり、気道が狭くなったまま元に戻らなくなる不可逆的な変化です。

    これが起こると、喘息が重症化・難治化し、吸入ステロイド薬が効きにくくなることがあります。

    大切なのは、医師の指導のもと、吸入薬などの治療を継続することや、喘息の原因となるアレルゲンなどを可能な限り避けることです。

    不安なことがあれば、自己判断せず、医師や薬剤師に相談しながら治療を続けていきましょう。

  • 気管支喘息とは?原因・症状・治療と生活で気をつけることを薬剤師が解説

    気管支喘息は薬による治療だけでなく、環境を整えることが大切な病気です。
    タバコの煙、ハウスダスト、カビ、ペット、気温や湿度、生活習慣など、日常生活の中に症状を悪化させる要因がたくさんあります。

    気管支喘息について投稿しようと思った理由は、患者さん本人、もしくは小児喘息の場合は保護者が予防することで、発作を少なくできる可能性があるとブログを読んでくれている方に伝えたかったからです。

    この記事では、薬剤師の立場から「気管支喘息とは何か」「なぜ起こるのか」「どう治療し、どう生活すればよいのか」をわかりやすく解説します。

    気管支喘息は、発作が起きたときだけ注意すればよい病気ではありません。
    症状がないように見える時期でも気道の炎症が続いており、日常生活のさまざまな場面に影響を与える慢性疾患です。

    ■ 主な症状

    気管支喘息でよくみられる症状には、以下のようなものがあります。

    • 喘鳴(ぜんめい)
       「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった音を伴う呼吸
    • 息苦しさ・呼吸困難感
    • 咳(特に夜間・早朝に多い)

    これらの症状は、副交感神経が優位になる夜間〜明け方に悪化しやすく、症状が落ち着いている時期と悪化して発作を起こす時期を繰り返すという特徴があります。

    ■ 夜間・早朝の発作による睡眠への影響

    喘息発作は夜間から明け方に起こりやすく、咳や喘鳴で目が覚めてしまうことがあります。

    睡眠不足が続くと、日中の集中力低下から学校や仕事でのパフォーマンス低下や、疲れやすさや体調不良につながることもあり、生活の質(QOL)を下げる原因になります。

    ■ 学校・仕事・日常生活への影響

    症状が強い場合や、風邪などをきっかけに悪化するとこのような場面が生じることがあります。

    • 学校や仕事を欠席・早退する
    • 外出や旅行を控える
    • 人前で咳が止まらず不安を感じる

    特に小児では、体育の授業や運動会に参加できないことが精神的なストレスになることもあります。

    ■ 運動や活動の制限(QOLの低下)

    喘息が十分にコントロールされていないと活動量が制限されることがあります。

    • 運動中に息苦しくなる
    • 冷たい空気を吸うと咳が出る
    • 長時間走ることが難しい

    ただし、適切な治療でコントロールできていれば運動は原則可能です。
    「運動は禁止」ではなく、「発作を起こさないための準備と対策」が重要です。

    ■ 薬を継続して使う必要がある

    気管支喘息は、症状がない時期でも気道の炎症が続いている病気です。
    そのため、症状が落ち着いていて発作が出ていなくても吸入ステロイドなどの治療薬(コントローラー)を毎日継続することが重要になります。
    「苦しくないからやめる」→「再び悪化する」という悪循環に陥りやすいため、自己判断で中断しないことが大切です。

    ■ 発作時に備えて薬を持ち歩く必要がある

    外出先や学校、職場で突然発作が起こる可能性もあります。

    • 発作を抑える吸入薬(リリーバー)を携帯する
    • 小児では学校への薬の預け入れや管理

    このような対応が必要になることがあります。
    これは生活の制限ではなく、安心して日常生活を送るための備えと考えるとよいでしょう。

    気管支喘息は、アレルギー(IgE抗体)が関与しているかどうかによって、アトピー型喘息と非アトピー型喘息の大きく2つに分類されます。

    アトピー型喘息は小児に多く、アレルゲンに対して体が過剰に反応することで起こります。

    このタイプでは、特定のアレルゲンに反応して、IgE抗体(抗原特異的IgE)が増加し、肥満細胞からヒスタミンなどの炎症物質が放出されます。その結果、気道に炎症が起こり、気管支が狭くなって喘息症状が現れます。

    一方、非アトピー型喘息は成人以降に発症することが多く、血液検査で明確なアレルゲンやIgEの上昇がみられない(抗原非特異的)ケースが多く、原因特定が難しいとされています。

    感染や刺激など複数の要因が関与すると考えられています。

    ■アトピー型喘息の特徴

    • ダニ、ハウスダスト、ペットの毛、花粉などのアレルゲン吸入が原因
    • 血液検査でIgE高値や好酸球増加がみられることが多い
    • アレルギー性鼻炎やアトピー性皮膚炎を合併しやすい
    • 環境整備(アレルゲン対策)が症状コントロールに重要

    ■非アトピー型喘息の特徴

    • 風邪などの感染症、冷気、タバコの煙、PM2.5などの刺激が発作の誘因になる
    • 血液検査でIgEが正常範囲のこともある
    • 加齢や生活環境の影響を受けやすく、気道の過敏性が症状に関与すると考えられている

    実は気管支喘息には、1つの検査だけで確定できる明確な診断基準はありません。

    そのため、症状や検査結果、治療への反応などをもとに、医師が総合的に判断して診断します。

    参考とされる項目は以下のものがありますが、医療機関の設備や検査機器によって実施できる検査は異なるので、すべての検査が必ず行われるわけではありません。

    喘息に特徴的な症状

    咳、喘鳴(ゼーゼー)、呼吸困難、胸部の圧迫感など

    可逆性の気流制限

    日によって症状が変動する
    β₂刺激薬の吸入で症状や呼吸状態が改善する

    気道の過敏性亢進

    少しの刺激でも気管支が収縮しやすい状態 
    慢性的な気道炎症により、冷気・運動・煙などの刺激で気管支が収縮しやすい

    ・アトピー素因の有無

    小児では重要な所見
    成人喘息では参考所見の一つ

    喀痰中好酸球

    3%以上で好酸球性炎症を示唆
    専門的な検査のため、実施できる医療機関は限られる

    肺機能検査(スパイロメーター)

    息を強く吐いた量などを測定し、気道の狭さを数値で評価する検査

    ・喘息に似た病気の除外

    咳喘息、COPD、心疾患、アトピー咳嗽など

    治療への反応

    吸入ステロイドなどの治療で、次回受診時に症状が改善しているかどうか
    小児では肺機能検査が難しいことも多く、経過や治療反応を重視して診断される

    気管支喘息は、1つの原因だけで発症する病気ではありません。

    体質・遺伝・感染・成長過程などが重なり合い、気道に慢性的な炎症や過敏性が生じることで発症すると考えられています。

    ■アレルギー反応(アトピー素因)

    アトピー素因は一般的にはアトピー体質と呼ばれるもので、ダニやハウスダスト、花粉などのアレルゲンに対して免疫が過剰に反応しやすい特徴があります。

    その結果、IgE抗体を介したアレルギー反応が起こり、気道に炎症が生じやすくなり、喘息を発症・悪化しやすくなります。

    アトピー素因とは、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、気管支喘息などのアレルギー疾患を起こしやすい体質を指します。

    すでに症状が出ている人だけでなく、蕁麻疹や湿疹などのアレルギー反応を繰り返しやすい人や、家族にアレルギー疾患がある人も含まれます。

    ■遺伝的要因

    家族に気管支喘息や、アレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患がある場合、喘息を発症するリスクが高くなることが知られています。
    これは喘息そのものが遺伝するというより、「アレルギーを起こしやすい体質」が遺伝すると考えられています。

    ■感染症

    乳幼児期にかかるウイルス感染(RSウイルスなど)は、喘息の直接の原因ではありませんが、発症のきっかけになることがあります。
    気道が未熟な時期に強い感染を受けることで、気道の炎症や過敏性が残り、その後の喘息発症につながると考えられています。

    ■年代・性別差

    • 小児期では男児に多い
    • 思春期以降は男女差が小さくなる、または女性に多くなる傾向がある

    この違いには、気道の太さの違いやホルモンバランスの変化が関与していると考えられています。

    ■地域差

    • 日本では黄砂が多い地域(九州地方や中国地方)で症状悪化がみられることがある
    • 寒暖差の大きい地域では発作が起こりやすい
    • 海外では地域差や調査方法がそれぞれ異なるが、インド、バングラディシュ、イギリスなど大気汚染の強い国でリスクが高いとされる

    ■アレルゲン

    • ダニ
    • ハウスダスト(室内のホコリ。ダニの死骸やフンを含む)
    • カビ
    • ペットの毛・フケ
    • 花粉

    免疫(IgE)が関与する原因物質なのでアトピー型喘息では特に重要です。
    ただ、 非アトピー型でも悪化因子になることはあります。

    ■刺激・環境による発作誘因

    • タバコの煙(受動喫煙含む)
    • PM2.5・黄砂
    • 排気ガス
    • 線香・お香・アロマの煙
    • 石油ストーブなど暖房器具の排気
    • 掃除機・布団の上げ下ろし時の粉塵

    これらはアレルゲンではありませんが、吸い込むと直接気道を刺激するため、気道の過敏性が高い方では発作を起こしやすくなります。

    アトピー型・非アトピー型どちらでも発作の引き金となりえますが、特に非アトピー型では、アレルゲンよりもこうした刺激が主な原因となっていることが多いため重要です。

    ■体の状態・行動による発作誘因

    これらは環境中の物質ではなく、体調や行動の変化によって気道が過敏になることで起こる発作誘因です。

    • 運動(運動誘発喘息)
    • 風邪・ウイルス感染
    • 冷たい空気の吸入
    • 気温・湿度の急激な変化
    • 強いストレス・疲労

    これらの状態になることもアトピー型・非アトピー型に関わらず、普段コントロール良好の方でも発作の原因になることがあります。

    ■対処法

    気管支喘息は、発作が起きてから対処する病気ではなく、発作を起こさないように予防がとても重要な病気です。

    そのためには、自分(またはお子さん)の喘息発作の引き金となる原因を、ある程度把握しておくことが大切になります。

    何に対してアレルギーを持っているかは、病院で血液検査を行い、ある程度は把握することが可能です。

    アレルゲンでなくとも、喘息発作の原因となっているものが分かっていれば、原因物質に近づかない、掃除、換気、禁煙、マスク、休養などの対策が出来ます。

    原因物質をゼロにすることが出来なくても、量を減らすことでも効果が期待出来ます。

    気管支喘息は、「原因を知る → 避ける工夫をする → 薬で炎症を抑える」この積み重ねで、日常生活を大きく制限せずに過ごせる病気です。

    吸入ステロイドなどの長期管理薬を継続することで、気道の炎症や過敏性そのものを抑え、発作を起こしにくい状態を保つことができます。

    症状が安定していれば、医師の指示のもと、事前に吸入薬を準備して、部活動や体育で運動することが可能なケースも少なくありません。

    発作を我慢するのではなく、起こさないようにすることが、安心して生活するための近道です。

    気管支喘息の治療は、気道の慢性的な炎症を抑えることが基本です。
    症状があるときだけ治療するのではなく、発作を起こさないための継続治療が重要になります。
    以下にそれぞれの薬の代表例を記載しています。

    【1】 吸入ステロイド(ICS):第一選択薬

    フルチカゾン(フルタイド)、ブデソニド(パルミコート)

    • 気道の慢性炎症を抑える、喘息治療の中心となる薬
    • 症状がない時期でも毎日使用する
    • 局所作用(ほぼ気管支だけに作用)なので、正しく使えば全身への副作用は少ない

    気管支喘息の症状がなく苦しくない状態は、病気が治っているのではなく、薬により炎症を抑え続けているからです。
    吸入ステロイドによる口腔カンジダや嗄声などの副作用防止のため、吸入後にうがいを行います。



    【2】 β₂刺激薬

    短時間作用型(SABA)

    サルブタモール(サルタノール)、プロカテロール(メプチン)

    長時間作用型(LABA)

    ツロブテロール(ホクナリン)、サルメテロール(セレベント)、インダカテロール(オンブレス)

    • 気管支を広げ、息苦しさを速やかに改善
    • SABAは発作時の頓用薬(リリーバー)
    • LABAは単独使用は推奨されず、吸入ステロイドと併用が基本

    発作を抑える薬と炎症を抑える薬とで役割は異なります。

    β₂刺激薬も吸入後のうがいが推奨されています。

    【3】抗コリン薬

    チオトロピウム(スピリーバ)、イプラトロピウム(アトロベント)

    吸入ステロイドやβ₂刺激薬で効果不十分な場合の追加治療や、COPD合併例や高齢者の喘息に使われることがあります。
    閉塞隅角緑内障や前立腺肥大症には禁忌です。

    【4】配合剤

    サルメテロール・フルチカゾン(アドエア)

    ブデソニド・ホルモテロール(シムビコート)

    フルチカゾン・ホルモテロール(フルティフォーム)

    フルチカゾン・ビランテロール(レルベア)

    インダカテロール・グリコピロニウム・モメタゾン(エナジア)

    フルチカゾン・ウメクリジニウム・ビランテロール(テリルジー)

    ブデソニド・グリコピロニウム・ホルモテロール(ビレーズトリ)

    複数の吸入剤を併用するよりも、配合剤で手間を減らしたり、吸入の間違いを予防することで治療の継続がしやすくなるという利点があります。
    また、気管支を広げた状態で吸入ステロイドを届けることができるため、より高い治療効果が期待されます。

    【5】ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)

    モンテルカスト(シングレア)、プランルカスト(オノン)

    • アレルギーに関わる炎症物質の働きを抑える
    • 軽症喘息や小児喘息で使われることが多い
    • アレルギー性鼻炎を合併している場合に有効

    【6】テオフィリン徐放剤

    テオフィリン(テオドール)

    • 気管支拡張作用をもつ
    • 血中濃度管理が必要
    • 主要な治療薬で効果不十分の場合に有効な補助治療として使われることがある



    【7】経口ステロイド薬

    プレドニゾロン(プレドニン)

    • 強力な抗炎症作用
    • 急激な悪化時や重症例で短期間使用
    • 生命にかかわる重症発作時ではパルス療法を行うことがある

    ■ その他の治療(補足)

    • 従来の治療で効果不十分な重症喘息に対しては生物学的製剤を検討する
    • 重症発作時には酸素吸入やボスミン皮下注など
    • 補助的に抗ヒスタミン薬や漢方薬が用いられることも
    • アレルゲン免疫療法で体質改善を目指すことも出来る場合がある
    • 病院や自宅でネブライザーを用いた吸入を行うこともある

    気管支喘息の治療は、年齢や症状の程度、生活状況などを考慮し、主治医の判断で行われます。一般的には、吸入ステロイドを長期管理薬として継続し、発作時にはβ₂刺激薬を使用します。必要に応じて他の薬剤を追加し、段階的に治療を調整していきます。
    詳しくは厚生労働省のガイドラインをご参照ください。

    【厚生労働省:成人喘息の疫学、診断、治療と保険指導、患者教育】
    https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-07-0001.pdf

    【厚生労働省:小児喘息の疫学、診断、治療と保険指導、患者教育】
    https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-06-0007.pdf

    実は、喘息を経験しながらも一流のアスリートとして活躍したのはこちらの方々です。

      羽生結弦さん(フィギュアスケート)

      藤川球児さん(元プロ野球選手)

      岡崎慎司さん(元サッカー日本代表)

    気管支喘息は、適切な治療と自己管理を続けることで、日常生活はもちろん、スポーツや仕事、やりたいことを諦めずに続けることが可能な病気です。
    大切なのは我慢することではなく、正しく知り、上手につきあうことです。
    お子さんであれば、保護者が病気や薬のことを理解し、治療のサポートを行う必要があります。

    喘息の症状や治療内容、薬の使い方には個人差があります。不安なことや分からないことがあれば、自己判断せず、主治医や薬剤師に相談しながら治療を進めていきましょう。

  • 「みずいぼ(伝染性軟属腫)って放っておいても大丈夫?薬や治療、感染の注意点を薬剤師が解説!」

    夏場になると子どもの肌に、ポツポツとした「みずいぼ」ができているのを見たことはありませんか?

    かゆみも痛みもあまりないのに、いつの間にか数が増えている…。

    実はこれ、「伝染性軟属腫(みずいぼ)」というウィルスによる皮膚感染症です。

    ここでは、薬剤師の視点から「みずいぼがどんな病気なのか」「どう治すのか」「感染を広げないために何を気をつければいいのか」まで、わかりやすく解説します。

    みずいぼは1歳〜10歳くらいの小児に多くみられる病気ですが、特にプールの季節に感染が増えます。

    感染のきっかけは、肌と肌の接触なので、兄弟姉妹やお友達とのスキンシップが多い時期に広がりやすいのです。

    大人でも感染することはありますが、免疫力がしっかりしているためほとんどは軽症です。

    一方で、アトピー性皮膚炎などで皮膚バリアが弱っている人は感染しやすく、治りにくい傾向があります。

    原因は「伝染性軟属腫ウィルス(ポックスウィルスの一種)」で、このウィルスが皮膚の表面に感染し、中央が少し凹んだ白っぽい丘疹を作ります。

    • 見た目の特徴:1〜5mm程度の丸いツヤのあるイボ。中央が少しくぼむ。
    • 痛みやかゆみはほとんど無いが、掻くと炎症を起こして赤くなることも。
    • 最初は数個でも、掻くことで自己感染してどんどん増える。
    • 経過としては自然に免疫ができ、半年〜2年ほどでそのまま治ることが多い。

    血液検査や特別な検査は基本的に不要で、皮膚科医が見た目で診断できます。

    みずいぼには以下の治療薬を使う事があります。

    • ワイキャンス外用薬
      2025年9月に承認。
      作用機序は明確にされていないが、中性セリンプロテアーゼの活性化を介し、表皮のデスモソームを脆弱化し、表皮構造を破壊することで塗布部位に水疱を形成する。
      水疱の形成により病巣皮膚が剥がれ落ち、ウィルス感染組織が除去されると考えられている。
      3週間に1回病院内で塗布。
    • MBFクリーム
      銀イオンの抗ウィルス作用がみずいぼの原因ウィルス(伝染性軟属腫ウィルス)を抑制する。
      さらに、もう1つの細分であるサクランは保湿効果と抗炎症作用がある。
      医師の診断後に自費で購入する必要あり。
    • ヨクイニン
      体内の水分バランスを整え、余分な水分や老廃物を輩出することで、肌のターンオーバーが活性され、イボを体外に排出する。
      また、免疫細胞の働きを整えることで症状改善に期待されると考えられています。
    • スピール膏
      サリチル酸が患部に浸透する事で、角質を柔らかくして皮膚をふやかし、いぼを剥がしやすくする。
      患部以外に貼ると、皮膚を傷つける恐れがあるので、患部のみに貼る。
      ただし、市販のスピール軟膏は、ミズイボへの適応がないので注意。

    上記の薬物治療は痛みがない治療として、患者さんの状況に合わせて選択されます。

    みずいぼの症状に加えて皮膚が乾燥しているとウィルスが広がりやすくなるため、保湿剤(ヘパリン類似物質やワセリンなど)で肌を守ることも大切です。

    アトピー性皮膚炎を併発している場合は、ステロイド外用薬でかゆみや炎症を抑え、掻かないようにするのも有効です。

    ■ 医療機関での処置

    皮膚科では「ピンセットで1つずつ取り除く(摘除法)」が一般的です。

    痛みを伴いますが、麻酔のシール(エムラクリームなど)を使うことで痛みを軽減できます。

    他にも、液体窒素による凍結療法もありますが、こちらも痛みを伴います。

    また、みずいぼは自然治癒も可能ですが、免疫がついて完治するまで時間がかかるので、他の人にうつしてしまったり、とびひ等の二次感染のリスクを考えると、病院を受診して治療することをお勧めします。

    ■ 感染を防ぐには

    • タオルや衣類の共用を避ける
    • 入浴やプール後はしっかり身体を洗う
    • 掻かないように短く爪を切る

    感染経路は主に接触感染ですが、肌と肌が触れやすい環境(プールなど)では広がる可能性があります。

    ■ 登園・登校について

    多くの自治体では、登園・登校の制限は不要です。

    ただし、医師が「感染を広げやすい」と判断した場合のみプールを控えるよう指導されることがあります。

    免疫力を落とさないことが大切です。

    ビタミンA・C・Eを多く含む野菜や果物をとり、睡眠と保湿ケアをしっかり行いましょう。

    皮膚のバリアを保つことで、ウィルスが侵入しにくくなります。

    みずいぼという名前ですが、実は中に入っているのは水ではなく、モルスクム小体というウィルスと変性した皮膚組織が混ざり合った白い粥状の塊です。

    潰すとウィルスが拡散してしまうため、絶対に自分でつぶさないようにしましょう。

    みずいぼはウィルスによる皮膚感染症で、自然に治る病気である反面、症状が広がったり、他の人への感染に注意が必要です。

    家庭でのスキンケアと、必要に応じた皮膚科での除去で、清潔な肌を保ちましょう。