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    ステロイドで筋肉はつく?|プレドニンとアナボリックステロイドの違いを薬剤師が解説

    筋肉を大きくするために「ステロイドを使う」という話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

    一方で、病院ではプレドニンなどのステロイド薬が処方されています。

    そのため、「プレドニンを飲みながら筋トレをしたら筋肉が付きやすくなるのでは?」と思ったことがある方もいるかもしれません。

    しかし、ここには大きな誤解があります。

    筋肥大を目的として使われるステロイドと、病院で処方されるプレドニンは、同じ“ステロイド”でも作用は大きく異なります。

    今回は、プレドニンとアナボリックステロイドの違い、筋肥大のメカニズム、副作用について薬剤師が解説します。

    ①プレドニンで筋肉はつくのか?

    結論:筋肉はつかない

    むしろ長期間使用すると筋肉量が減少することもあります。

    ステロイドの定義

    ステロイドとは、ステロイド骨格(シクロペンタノヒドロフェナントレン環)を持つ物質の総称です。

    副腎皮質ホルモンや性ホルモンは、いずれもコレステロールから生合成されるステロイドホルモンです。

    つまり、「ステロイド」は薬の名前ではなく、共通した構造を持つ物質のグループ名です。

    プレドニンは何のステロイド?

    プレドニン(プレドニゾロン)は、副腎皮質ホルモンの一種である糖質コルチコイドに分類されます。

    強い抗炎症作用や免疫抑制作用を持ち、さまざまな疾患の治療に用いられます。

    • アレルギー
    • 自己免疫疾患
    • 炎症性疾患

    なぜ筋肉が減ることがあるのか

    糖質コルチコイドは、体内で糖新生を促進します。

    糖新生とは、アミノ酸などから新たにブドウ糖を作り出す仕組みです。

    その際、糖質コルチコイドは筋タンパク質の分解を促進し、放出されたアミノ酸を糖新生の材料として利用します。

    このため、プレドニン(プレドニゾロン)を飲みながら筋トレをしても、筋肥大を目的とした薬としては適していません。

    長期間・高用量で使用すると、ステロイドミオパチーと呼ばれる筋力低下や筋萎縮を生じることもあります。

    ではなぜ「筋肉がつくステロイド」が存在するのか?

    実はステロイドには複数の種類があり、筋肥大に関係するのはプレドニンとは別のステロイドです。

    次にその違いを見ていきましょう。

    ② 筋肥大に使われるステロイドとは?

    前項で解説したように、プレドニン(プレドニゾロン)は糖質コルチコイドであり、筋肉を増やす薬ではありません。

    では、筋肥大を目的として使われる「ステロイド」とは何なのでしょうか。

    まず知っておきたいのは、ステロイドにはさまざまな種類が存在するということです。

    副腎皮質ホルモンには、糖質コルチコイド、鉱質コルチコイドがあり、性ホルモンには、アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロンがあります。

    このうち、筋肥大に大きく関わるのがアンドロゲンです。

    筋肉を増やすのはアンドロゲン

    アンドロゲンとは男性ホルモンの総称で、その代表がテストステロンです。

    テストステロンは男性らしい体つきの形成に関与するだけでなく、筋肉や骨の発達を促進する作用を持っています。

    そのため、筋トレを行う人の間では「筋肉を増やすホルモン」としてよく知られています。

    つまり、筋肥大に関与するのはプレドニンのような糖質コルチコイドではなく、アンドロゲン系のステロイドなのです。

    アナボリックステロイドとは?

    アナボリックステロイド(蛋白同化ステロイド)は、テストステロンをもとに開発された薬剤です。

    筋肉を作る作用(タンパク同化作用)を強めるように構造が改変されており、筋肉や筋力の増加を目的として使用されることがあります。

    実際にアナボリックステロイドには筋肥大作用が存在します。

    しかし、その一方で重篤な副作用も報告されており、医療目的以外での使用には大きなリスクが伴います。

    では、アナボリックステロイドはどのような仕組みで筋肉を増やすのでしょうか。

    次に、その筋肥大のメカニズムについて見ていきます。

    ③筋肥大のメカニズム

    アナボリックステロイドはどうやって筋肉を大きくするのか

    アナボリックステロイドによる筋肥大は、単純に筋肉へ栄養を送り込むことで起こるわけではありません。

    筋細胞の中では、ホルモン受容体や遺伝子発現を介した複雑な仕組みが働いています。

    アナボリックステロイドは、まず筋細胞内のアンドロゲン受容体に結合します。

    活性化された受容体は細胞核へ移動し、筋タンパク合成に関わる遺伝子の発現を促進します。

    さらに、筋肥大の司令塔とも呼ばれるmTOR経路を活性化することで、筋タンパク合成を強力に促進します。mTORは細胞内で「筋肉を作れ」という指令を出す重要なシグナル経路です。

    また、アナボリックステロイドは衛星細胞(サテライトセル)の活性化にも関与すると考えられています。

    衛星細胞は筋線維の修復や成長を担う細胞であり、その活性化によって筋肥大が促進されます。

    このようにアナボリックステロイドは、筋タンパク合成の増加と衛星細胞の活性化を通じて、筋力増加や筋肥大をもたらします。

    なぜ筋肥大効果が強くなるのか

    通常の筋トレでも、筋肉に負荷が加わることでmTORが活性化し、筋タンパク合成が促進されます。

    一方、アナボリックステロイドを使用した場合は、生理的範囲を超える強いアンドロゲン受容体刺激が加わることで、筋タンパク合成がさらに促進されます。

    そのため、ナチュラルな状態と比べて筋肥大のスピードや筋量の増加幅が大きくなり、通常では到達が難しいレベルの筋肥大が起こることがあります。

    ④アナボリックステロイドの副作用

    筋肥大効果が強い一方で、アナボリックステロイドにはさまざまな副作用が報告されています。

    ホルモンバランスの乱れ

    アナボリックステロイドを外部から投与すると、体内では「十分な男性ホルモンが存在する」と判断されます。

    その結果、脳の視床下部や下垂体からのホルモン分泌が抑制され、自身のテストステロン産生が低下します。

    そのため、以下のような副作用が起こることがあります。

    ・精巣萎縮
    ・男性不妊
    ・性欲低下
    ・勃起機能の低下

    筋肉を大きくするために使用した結果、本来のホルモン機能に悪影響を及ぼす可能性があるのです。

    女性化乳房

    テストステロンの一部は体内でエストロゲン(女性ホルモン)へ変換されます。

    テストステロン

    エストロゲン

    女性化乳房

    その結果、男性であっても乳房が発達する「女性化乳房」が起こることがあります。

    症状が進行すると自然には改善せず、手術が必要になる場合もあります。

    肝障害

    アナボリックステロイドの中でも、経口剤では肝障害が問題になることがあります。

    軽度の肝機能異常から、黄疸や薬物性肝障害までさまざまな報告があります。

    特に長期間使用や高用量使用では注意が必要です。

    心血管イベント

    近年、アナボリックステロイドによる心血管系への影響も問題視されています。

    報告されている主なものとして、これらの症状があります。

    ・高血圧
    ・脂質異常症
    ・心筋梗塞
    ・脳卒中

    筋肉は大きくなっても、血管や心臓への負担は増加する可能性があります。

    精神症状

    アナボリックステロイドは精神面にも影響を与えることがあります。

    代表的なものとして、次のような精神的副作用が見られる可能性があります。

    ・攻撃性の増加
    ・イライラ
    ・気分の変動
    ・依存

    海外では、いわゆる「ロイドレイジ(roid rage)」と呼ばれる攻撃性の増加が話題になることもあります。

    実際の報告例

    アナボリックステロイドによる健康被害は、医学論文や症例報告でも数多く報告されています。

    例えば、過去にこれらが報告されています。

    ・若年者における心筋梗塞
    ・重度の肝障害
    ・拡張型心筋症や心不全
    ・突然死

    もちろん全ての使用者に起こるわけではありませんが、「若いから安全」というわけではありません。

    また、スポーツ庁も筋肉増強剤による健康被害や個人輸入の危険性について注意喚起を行っています。

    参考:スポーツ庁「筋肉増強剤を知る」

    https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/list/jsa_00072.html


    薬剤師としての考え

    筋肥大を目的としたアナボリックステロイドの使用は、高いリスクを伴います。

    実際に肝障害や心血管イベント、不妊、精巣萎縮などの副作用が報告されており、医療目的以外での使用は推奨されません。

    筋肉を大きくする効果は確かに存在しますが、その代償として将来的な健康被害を招く可能性があります。

    日本では筋肥大のみを目的としてアナボリックステロイドを処方することは認められていません。

    薬剤師として筋肥大を目的とした安易な使用はおすすめできません。

    ⑤ステロイドで筋肥大した後は?

    やめれば副作用はなくなるのか?

    アナボリックステロイドを使用して筋肉量を増やした後、「筋肉が付いたら使用を中止すれば、副作用だけ避けられるのでは?」と考える人もいるかもしれません。

    しかし実際には、そう単純な話ではありません。

    アナボリックステロイドによる副作用は、長期間使用した場合だけに起こるものではなく、短期間の使用でも生じる可能性があります。

    また、使用を中止した後もホルモンバランスの乱れが続くことがあり、回復までに長い時間を要するケースも報告されています。

    そのため、「少しだけ使ってやめれば安全」と考えるのは危険です。

    筋肉はそのまま維持できるのか?

    また、筋肉についても、ステロイド使用中に得られた状態を永久に維持できるわけではありません。

    使用を中止すると、筋タンパク合成能やホルモン環境は徐々にナチュラルな状態へ戻っていきます。

    トレーニングを継続していても、筋量は遺伝的要因やホルモン環境に大きく左右されるため、時間の経過とともに本来の範囲へ近づいていくと考えられています。

    マッスルメモリーとの関係

    一方で、近年はアナボリックステロイドによって増加した筋核(myonuclei)が長期間残存し、再びトレーニングを行った際に筋肉が付きやすくなる「マッスルメモリー」に関与する可能性が指摘されています。

    ただし、この現象がヒトでどの程度続くのか、またどれほど有利に働くのかについては、まだ十分に解明されていません。

    そのため、「一度だけ使って筋肉を手に入れれば、その後も有利な状態が続く」と断言できる段階ではありません。

    筋肉だけを手に入れることはできない

    少なくとも、アナボリックステロイドは「筋肉だけ手に入れて、副作用は避けられる」という都合の良い方法ではありません。

    筋肥大という大きなメリットがある一方で、その裏にはホルモンバランスの乱れや健康被害のリスクが存在します。

    使用を検討する際には、筋肉だけでなく、その代償についても理解しておく必要があるでしょう。

    ⑥まとめ

    「ステロイド」と一言で言っても、その種類によって作用は大きく異なります。

    プレドニン(糖質コルチコイド)とアナボリックステロイドは、どちらもステロイド骨格を持つ物質ですが、筋肉に対する作用は正反対です。

    プレドニンは筋タンパクの分解を促進し、長期間使用では筋力低下や筋萎縮を起こすことがあります。一方、アナボリックステロイドは筋タンパク合成を強力に促進し、筋肥大を引き起こします。

    また、アナボリックステロイドの中には個人輸入で入手できるものもあります。しかし、個人輸入された医薬品は品質や成分が保証されているとは限りません。

    さらに、副作用が生じた場合でも、国内で承認された医薬品のような救済制度の対象にならない可能性があります。

    筋肥大という魅力的な効果がある一方で、その裏にはホルモンバランスの乱れや心血管イベント、不妊などのリスクが存在します。

    筋肉を大きくしたいと考える場合は、安易に薬へ頼るのではなく、適切なトレーニングや栄養管理を継続することが最も安全で確実な方法と言えるでしょう。