今回の投稿の結論を最初に言います。
薬理学的に、リスクの大きいオーバードーズは割に合いません。
薬のオーバードーズ・・・
その一瞬に命をかけるほどの価値ある?
「薬をたくさん飲むと、嫌なことを忘れられる」
「気分が変わる」
そんな理由から、市販薬などを大量に飲む「オーバードーズ(OD)」が問題になっています。
しかし、薬はたくさん飲めば、欲しい効果だけが強くなるわけではありません。
作用が強くなりすぎれば、副作用や中毒症状、さらには生命に関わる危険につながることがあります。
今回は、代表的な薬を例に、「なぜオーバードーズは割に合わないのか」を薬理学の視点から解説します。
① オーバードーズに使われる薬は本来何のための薬?
オーバードーズに使われることのある市販薬には、どんなものがあるでしょうか?
厚生労働省は以下の8成分を「指定濫用防止医薬品」に指定しています。

※外用剤は対象外
これらは本来、咳や鼻づまり、アレルギー症状などの改善や、鎮静・催眠などを目的として使われる薬です。
これらの薬をどうして大量に飲む人がいるのでしょうか?そしてなぜそれが問題になるのでしょうか?
それは、薬には本来の目的とする作用以外にも、さまざまな作用があるからです。
では、たくさん薬を飲めば、気分が良くなったり、自分が望む作用だけが強くなったりすると思いますか?
薬は、そんなに都合よくできてはいません。
次は、代表的な薬を1つ取り上げて、薬理作用からオーバードーズで何が起こるのかを見ていきましょう。
② オーバードーズは、なぜ「割に合わない」のか?
ここでは、オーバードーズに使われることのあるデキストロメトルファンを例に見てみましょう。
デキストロメトルファンは何の薬?
デキストロメトルファンは、かぜ薬などに含まれる咳止めの薬です。
では、なぜ咳止めの薬がオーバードーズに使われるのでしょうか?
ポイントは、デキストロメトルファンが中枢神経に作用する薬だということです。
デキストロメトルファンは、服用後に消化管から吸収されて血液中に入り、血液脳関門を通過して、複数の受容体や神経伝達系に作用します。
そして、延髄を中心とする咳反射の神経回路に作用し、咳反射を抑制します。
他にも、NMDA受容体拮抗作用や、セロトニン作動性神経系への作用があることが知られています
つまり、「咳にだけ作用する薬」ではなく、脳に作用することで咳を抑える薬なのです。

デキストロメトルファンを大量に飲むとどうなる?
薬を大量に飲めば、多幸感や非日常的な感覚のような、自分が望む作用だけを強く感じることができるのでしょうか?
もちろん、そうではありません。
デキストロメトルファンには、通常の用量でも呼吸抑制、頭痛、悪心などの副作用が起こることがあります。
オーバードーズによって作用が過度に強くなれば、呼吸停止、意識消失、セロトニン症候群などの重篤な中毒症状が起こることもあります。
そして本当に怖いのは、治療を受ければ必ず元に戻るとは限らないことです。
重い中毒では死亡することもあり、呼吸障害などによって脳に十分な酸素が届かなくなれば、後遺症が残る可能性もあります。
また、意識や判断力が低下することで、転倒や事故につながる危険もあります。
さらに、繰り返し使用すると、依存や離脱症状により、オーバードーズから抜け出せなくなるかもしれません。
一時的な現実逃避のために、ここまでのリスクを背負う必要があるでしょうか?
これが、オーバードーズが「割に合わない」理由です。

③ もしオーバードーズしてしまった時の相談先は?
オーバードーズしてしまった場合は、できるだけ早く周囲の人や医療機関などに助けを求めましょう。
まず大切なのは、自分を責めることではなく、自分の安全を守ることです。
オーバードーズした後どうする?
すでに薬を大量に飲んでしまった場合、「今は症状がないから大丈夫」と自己判断しないことが大切です。
オーバードーズ後に、次のような症状がある場合は、すぐに119番へ連絡してください。
- 意識がもうろうとする、意識を失う
- 呼吸が苦しい、呼吸がおかしい
- けいれんする
- 強い動悸やふらつきがある
- 激しい嘔吐や体調の急激な悪化がある
また、何をどれくらい飲んだのか分からない場合や、複数の薬を飲んでしまった場合も、自己判断せずに医療機関や中毒110番へ相談しましょう。
中毒110番では、医薬品などによる急性中毒について、一般の人からの相談を365日24時間受け付けています。
公益財団法人日本中毒情報センター|中毒110番・電話サービス
医療機関や中毒110番に対して「オーバードーズだから相談しづらい」と思わなくて大丈夫です。
急性中毒が心配なときは、迷わず相談しましょう。

「やめられない」ことを相談してもいい
「オーバードーズをやめたいけど、やめられない」
これだけでも、相談していいんです。
オーバードーズを繰り返している場合は、薬の問題だけではなく、その背景にあるつらさやストレス、孤独などについて相談することも大切です。
精神科・心療内科などの医療機関を受診するほか、公的な相談窓口に相談することもできます。
「ODをやめたいのに、やめられない」という場合は、下記URLから各地域の精神保健福祉センターに相談できます。
また、「ODについて相談したいけど、どこに何を相談すればいいのか分からない」という場合は、こころの健康相談統一ダイヤルに電話してみるのも一つの方法です。
こころの健康相談統一ダイヤルは、全国共通の電話番号0570-064-556に電話すると、電話をかけた地域の公的な相談機関につながります。相談内容に応じて、適切な相談先を案内してもらえます。
「誰に相談したらいいのか分からない」こと自体を相談しても大丈夫です。

薬局・ドラッグストアの薬剤師に相談したら?
「オーバードーズをしてしまった」「やめたいけど、やめられない」と薬剤師に相談することもできます。
薬剤師や登録販売者は、相談を受けたときに必要に応じて医療機関や相談窓口につなぐ役割があります。
厚生労働省も、相談窓口の一覧を渡すだけの一律・機械的な対応ではなく、個別の状況に応じて、窓口の担当者につなぐところまで対応するなど、丁寧な対応を求めています。
厚生労働省|一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について(薬剤師、登録販売者の方へ)
「薬剤師に相談したら怒られる」
「どこかに通報されるかもしれない」
そう考えて一人で抱え込む必要はありません。

なぜオーバードーズしてしまったのかを振り返る
「なぜ薬を大量に飲みたくなったのか」を振り返ることが、次にODを繰り返さないためのきっかけになるかもしれません。
はっきりと分からないこともあるかもしれませんが、ストレスや孤独、生きづらさなど、ODをしてしまう背景には何があるのかを考えてみると、誰かに相談するきっかけになるかもしれません。

④ まとめ
オーバードーズは、薬理学的に考えても「割に合わない」行為です。
薬は、たくさん飲めば自分が望む作用だけが強くなるわけではありません。
作用が強くなりすぎれば、中毒症状や意識障害、呼吸障害など命に関わる危険につながることがあります。
今回、例として取り上げたデキストロメトルファンも、咳を抑えるための薬ですが、過量になると中枢神経系への作用が強くなり、重い中毒につながることがあります。
「一時的につらいことを忘れたい」
「今の気持ちから逃げたい」
そんな気持ちがあったとしても、そのために命や健康を大きく危険にさらす必要はありません。
もし、すでにオーバードーズをしてしまった場合や、「やめたいけど、やめられない」と感じている場合は、一人で抱え込まず、医療機関や相談窓口、薬剤師などに相談してください。
オーバードーズをしてしまったことよりも、これからどうするかが大切です。
