タグ: タバコ

  • 【薬剤師が解説】タバコはなぜ体に悪い?ニコチン・タール・一酸化炭素を科学的に解説

    【薬剤師が解説】タバコはなぜ体に悪い?ニコチン・タール・一酸化炭素を科学的に解説

    「百害あって一利なし」と言われるタバコですが、“百害”とは、具体的にどのような害なのでしょうか。

    タバコは肺がんだけでなく、心臓や血管、脳など全身にさまざまな悪影響を及ぼします。また、ニコチンによって脳が依存してしまうため、「やめたくてもやめられない」状態に陥ることも少なくありません。

    この記事では、薬剤師の視点から、タバコに含まれる有害物質や体に悪影響を及ぼす仕組み、ニコチン依存が起こる理由、禁煙補助薬について、科学的な根拠をもとにわかりやすく解説します。


    ①タバコの三大有害物質

    ニコチン

    ニコチンの最も厄介な点は、強い依存性を持ち、喫煙を続けさせてしまうことです。

    タバコを吸うと、ニコチンは肺からすばやく吸収され、わずか数秒で脳へ到達します。

    ニコチンは脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、快感や達成感に関わるドーパミンの分泌を促します。

    この「気持ちが良い」という感覚を脳が学習することで、「また吸いたい」という欲求が生まれ、喫煙を繰り返すようになります。

    さらに喫煙を続けると脳内のニコチン性アセチルコリン受容体が増え、同じ本数では満足できなくなり、徐々に依存が強くなっていきます。

    また、ニコチンは交感神経を刺激するため、次のような作用があります。

    • 血管を収縮させる
    • 血圧を上昇させる
    • 心拍数を増加させる

    この状態が長期間続くことで、心臓や血管に負担がかかり、循環器疾患を発症するリスクが高くなることが知られています。

    なお、ニコチン自体には発がん性はないと考えられていますが、ニコチンは体内で発がん性を持つニトロソアミン類へ変化する可能性があることも報告されています。


    タール

    タールは、タバコの煙に含まれる黒褐色の粘着性物質で、がんの主な原因となる有害物質です。

    「タール」という名前の単一の物質があるわけではなく、数千種類の化学物質が集まった混合物であり、その中には70種類以上の発がん性物質が含まれていることが知られています。

    代表的な発がん性物質には、次のようなものがあります。

    • ベンゾ[a]ピレン
    • ニトロソアミン類
    • 芳香族アミン類

    これらは細胞のDNAを傷つけ、遺伝子変異を引き起こすことで発がんにつながると考えられています。

    さらに、タールは体内で活性酸素を大量に発生させます。活性酸素は細胞膜やタンパク質、DNAを酸化させるため、慢性的な炎症や細胞障害を引き起こします。

    このようなDNAの損傷や慢性的な炎症が長期間続くことで、肺胞が破壊されるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や、発がんのリスクが高まることが知られています。

    これらの病気については、次の項目で詳しく解説します。



    一酸化炭素

    一酸化炭素(CO)は、タバコの火が不完全燃焼することで発生する無色・無臭の有害ガスです。

    一酸化炭素は、一酸化炭素中毒という言葉があるように強い毒性を持っており、血液中で酸素を運ぶヘモグロビンと、酸素の約200〜250倍の強さで結合します。

    そのため、酸素を十分に運べなくなり、全身が慢性的な酸欠状態になります。

    さらに、一酸化炭素はヘモグロビンから酸素が組織へ放出される働きも妨げるため、心臓や脳など酸素を多く必要とする臓器へ大きな負担をかけます。

    このような状態が長期間続くことで、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの循環器疾患のリスクが高まることが知られています。


    加熱式たばこ・電子タバコなら安全?

    近年は、IQOSなどの加熱式たばこを使用する人も増えています。

    加熱式たばこは紙巻きたばこと比べて一部の有害物質は少ないとされていますが、有害物質がゼロではなく、受動喫煙のリスクも完全になくなるわけではありません。

    また、多くの加熱式たばこにはニコチンが含まれているため、依存性も残ります。

    一方で、ニコチンやタールを含まない電子タバコ(VAPE)も存在します。しかし、香料などを加熱して吸入することによる健康影響については、まだ十分なデータが蓄積されておらず、安全性が確立されているとは言えません。

    ②タバコはなぜ体に悪いのか

    血管への悪影響

    タバコを吸うと、ニコチンの作用によって交感神経が刺激されます。その結果、血管は収縮し、心拍数や血圧が上昇します。

    血管が収縮した状態が続くと、心臓は狭くなった血管へ血液を送り出すために、より強い力で働かなければなりません。

    そのため、心臓や血管には大きな負担がかかります。

    さらに、喫煙を長期間続けると血管の内側(血管内皮)が傷つき、動脈硬化が進行します。

    一度進行した動脈硬化を完全に元の状態へ戻すことは難しいため、早めの禁煙が重要です。

    動脈硬化によって血管が狭くなったり詰まったりすると、次のような病気を発症するリスクが高くなります。

    • 高血圧
    • 心筋梗塞
    • 脳梗塞

    つまり、タバコは一時的に血圧を上げるだけでなく、長い年月をかけて血管そのものを傷つけることで、命に関わる循環器疾患の原因にもなるのです。

    酸欠になる

    タバコに含まれる一酸化炭素は、ヘモグロビンと非常に強く結合するため、酸素を十分に運べなくなります。

    その結果、全身の組織が慢性的な酸素不足(酸欠)の状態となります。

    酸素が不足すると、体は必要な酸素を送り届けようとして心臓がより強く働くため、心臓への負担が大きくなります。

    また、心筋そのものにも十分な酸素が届きにくくなるため、心臓はさらにダメージを受けやすくなります。

    このような状態が長期間続くことで、心筋梗塞や狭心症などの循環器疾患を発症するリスクが高くなることが知られています。

    細胞を傷つける

    タバコによって発生する活性酸素には、スーパーオキシドやヒドロキシラジカルなどがあります。

    中でもヒドロキシラジカルは反応性が非常に高く、DNAを直接傷つけることが知られています。

    本来、私たちの細胞には傷ついたDNAを修復する仕組みが備わっています。

    しかし、喫煙によって毎日のように大量の活性酸素にさらされると、修復が追いつかなくなり、傷ついたDNAが徐々に蓄積していきます。

    さらに、喫煙による慢性的な酸化ストレスは、DNA修復に関わる酵素の働きも低下させることが報告されています。

    その結果、遺伝子の異常が残りやすくなり、さまざまな病気の発症リスクが高まります。

    受動喫煙も危険

    タバコの煙に含まれる有害物質は、喫煙者だけでなく、周囲の人にも吸い込まれています。

    受動喫煙によって吸い込む煙にも、ニコチンやタール、一酸化炭素をはじめとする多くの有害物質が含まれており、家族や子ども、妊婦であっても同じように体へ悪影響を及ぼします。

    特に子どもは肺や免疫機能が十分に発達していないため、受動喫煙によって喘息や肺炎、中耳炎などを起こしやすくなることが知られています。

    また、妊婦では胎児への酸素供給が低下し、低出生体重児や早産のリスクが高まることも報告されています。

    近年では、喫煙者が吐き出した煙だけでなく、衣服や髪の毛、壁やカーテンに付着した有害物質にも注意が必要とされており、本人だけの問題ではなく、家族全体の健康に関わる問題と考えられています。

    ③タバコはなぜやめられないのか

    ニコチン依存の仕組み

    タバコがやめられない最大の理由は、ニコチンによって脳が「タバコは必要なものだ」と学習してしまうことです。

    ニコチンは脳内のニコチン性アセチルコリン受容体に作用し、快感や達成感に関わるドーパミンの分泌を促します。

    ドーパミンは本来、食事や運動など「生きるために必要な行動」をした時にも分泌される神経伝達物質です。

    そのため脳は、「ドーパミンが出た行動=もう一度行うべき行動」と記憶する性質があります。

    つまり、喫煙によって繰り返しドーパミンが分泌されると、脳は「タバコ=快感を得られる行動」として学習し、喫煙を習慣化させてしまいます。

    さらに時間が経って血液中のニコチン濃度が低下すると、脳は再びニコチンを求めるようになります。

    その結果、イライラや落ち着きのなさ、集中力の低下、強い喫煙欲求などの離脱症状(禁断症状)が現れます。

    この不快な症状を解消するために再びタバコを吸うと、一時的にドーパミンが分泌されて楽になります。

    この流れを何度も繰り返すことで、ニコチン依存は徐々に強くなっていきます。

    つまり、喫煙は「快感を得るため」に始まり、やがて「離脱症状を避けるため」に吸い続ける状態へ変化していくのです。


    薬物依存度ランキング

    「タバコよりもアルコールの方がやめやすい」「覚醒剤ほど危険ではないから安心」と考えている方もいるかもしれません。

    しかし、薬物の依存性を比較した研究では、ニコチンは非常に依存性の高い薬物であることが示されています。

    下の表は、イギリスの精神科医 David Nutt(デイビッド・ナット) らが発表した依存性の比較データをもとにしたものです。

    薬物依存度ランキング表

    出典
    Nutt D, et al. Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse. Lancet. 2007.

    このように、ニコチンは違法薬物ではないものの、アルコールを上回る依存性を持つと評価されています。

    そのため、「意志が弱いから禁煙できない」のではなく、脳の仕組みによってやめにくくなっていることを理解することが大切です。

    ④禁煙補助薬とは?

    禁煙を達成することは、喫煙者にとって決して簡単なことではありません。

    禁煙をサポートしてくれる治療(禁煙外来)や薬もあります。

    現在、日本で使用されている主な禁煙補助薬には、ニコチンガム・ニコチンパッチ・チャンピックス(バレニクリン)があります。

    ここからは、それぞれの特徴や作用機序、副作用について詳しく解説します。

    ニコチンガム

    • 作用機序

    ガムを噛むことで体内にニコチンを吸収し、脳のニコチン性アセチルコリン受容体へ作用し、離脱症状や喫煙欲求などを軽減します。

    • 特徴

    ニコチンガムは、タバコを吸いたいと思ったタイミングで使用できることが特徴です。
    タバコに比べてニコチンの吸収はゆるやかなため、喫煙量が多い人では物足りなく感じることがあります。

    • どんな人に向いている?

    喫煙欲求が出るタイミングがある程度予測できる人や、自分で使用量を調整したい人に向いています。
    また、禁煙中の口寂しさを紛らわす目的でも使用されます。

    • 使い方

    通常のガムのように噛み続けるのではなく、数回噛んだら頬と歯ぐきの間に置き、刺激が弱くなったら再び噛むという方法を繰り返します。
    ニコチンを口腔粘膜からゆっくり吸収させることが重要です。
    ニコチンガムを使用しながらの喫煙はニコチン過剰摂取につながるため避けます。

    • 副作用

    主な副作用は、口の中やのどの刺激感、しゃっくり、吐き気、胃の不快感などです。

    ニコチンパッチ

    • 作用機序

    皮膚からニコチンが吸収され、脳のニコチン性アセチルコリン受容体へ作用することで、離脱症状や喫煙欲求を軽減します。

    • 特徴

    ニコチンを一定時間かけて持続的に補給できることが特徴です。

    1日1回貼り替えるだけで効果が持続します。

    • どんな人に向いている?

    喫煙本数が多い人や、頻繁に喫煙欲求が出る人に向いています。

    また、ガムを噛むことが苦手な人や、接客業などの仕事中にガムを噛めない人、使用方法を簡単にしたい人にも適しています。

    • 使い方

    通常は1日1回、上腕や胸、腹部などの皮膚へ貼付し、毎日貼る場所を変えて使用します。かぶれを防ぐため、同じ場所に続けて貼らないことが重要です。

    ニコチンパッチを使用しながらの喫煙は、ニコチン過剰摂取につながるため避けます。

    • 副作用

    主な副作用は、貼付部位の発赤やかゆみ、皮膚のかぶれ、不眠、頭痛、吐き気などです。特に就寝中に貼ったままだと、不眠や鮮明な夢を見ることがあります。

    チャンピックス(バレニクリン)

    • 作用機序

    バレニクリンは、脳のニコチン性アセチルコリン受容体(α4β2ニコチン受容体)の部分作動薬です。

    受容体を部分的に刺激することで少量のドーパミンを分泌させ、離脱症状や喫煙欲求を軽減します。

    さらに、バレニクリンが受容体へ結合することで、ニコチンが受容体へ結合するのを妨げ、タバコを吸ったときの快感や満足感を得にくくする作用があります。

    • 特徴

    ニコチンを体内へ補給しないことが最大の特徴です。

    タバコを吸いたい気持ちを抑えるだけでなく、喫煙しても快感や満足感を得にくくするため、他の禁煙補助薬と比較して禁煙成功率が高いことが知られています。

    また、服用中に喫煙すると「おいしくない」「満足感が少ない」と感じる患者さんも多く、禁煙を継続しやすいとされています。

    • どんな人に向いている?

    喫煙本数が多い人や、これまでニコチンガムやニコチンパッチで禁煙に失敗した人に向いています。

    また、バレニクリンは医療機関で処方される薬であるため、自分の意思だけで禁煙することに不安があり、医師や薬剤師のサポートを受けながら禁煙したい人にも適しています。

    • 使い方

    通常は禁煙開始日の1週間前から服用を開始し、少量から徐々に増量します。

    治療期間は一般的に12週間です。

    • 副作用

    主な副作用は、吐き気、不眠、頭痛、便秘などです。

    特に吐き気は比較的多くみられるため、食後に服用することで軽減することがあります。

    禁煙補助薬比較表


    ⑤薬剤師が服薬指導のときに意識すること

    薬剤師は服薬指導の中で、生活習慣について確認する機会があります。

    「お酒は飲まれますか?」

    「タバコは吸われますか?」

    このような会話の後に、喫煙されている患者さんに対しては、無理に禁煙を勧めるのではなく、まずは患者さん自身の気持ちを確認することが大切です。


    禁煙を考えている人に対して

    服薬指導の際に、患者さんが喫煙していることが分かったら、禁煙を考えているかどうかも確認してみるとよいでしょう。

    禁煙したいと思っているものの、なかなかやめられない人や、過去に禁煙に挑戦して挫折したことがある人には、次のように伝えることができます。

    「タバコがやめにくいのは意志が弱いからではなく、ニコチン依存が関係しています。禁煙補助薬や禁煙外来を利用すると、離脱症状を軽減しながら禁煙できるため、成功率を高めることができます。」

    このように、患者さんを責めるのではなく、依存という病気の仕組みを説明したうえで、治療の選択肢があることを伝えることが重要です。

    ⑥ まとめ

    タバコの害は、「体に悪い」という漠然としたイメージだけでは十分に伝わりません。

    ニコチンは依存を形成し、タールは細胞を傷つけ、一酸化炭素は体を酸欠状態にします。

    その結果、がんや心筋梗塞、脳卒中、COPDなど、さまざまな病気のリスクが高まります。

    喫煙は日本人の死亡原因の多くに関わっており、禁煙することで心筋梗塞や脳卒中のリスクは比較的早い段階から低下することが分かっています。

    一方で、禁煙が難しいのは意志が弱いからではなく、ニコチン依存という病気が関係しており、禁煙補助薬や禁煙外来を利用することで、禁煙の成功率を高めることができます。

    薬剤師として大切なのは、タバコの害を正しく理解し、それを患者さんにも分かりやすく伝えることです。

    禁煙を考えている患者さんがいたら、「一人で我慢する」のではなく、「治療という選択肢がある」ことを伝えられる薬剤師でありたいと思います。

    最近では、オンラインで受診できる禁煙外来もあり、通院の負担を減らしながら禁煙治療を始めることも可能です。

    禁煙を考えている方は、一度専門の医療機関に相談してみることをおすすめします。