タグ: ビグアナイド薬

  • なぜメトグルコ(メトホルミン)は2型糖尿病の第一選択薬なのか?作用機序・副作用を薬剤師が解説

    なぜメトグルコ(メトホルミン)は2型糖尿病の第一選択薬なのか?作用機序・副作用を薬剤師が解説

    今回の記事で解説するのは、糖尿病患者さんに処方されることが多いメトグルコ(一般名:メトホルミン)です。

    内科の処方箋を応需する薬局であれば、日常的に目にする薬の一つではないでしょうか。

    現在、メトグルコは低血糖リスクが少なく、体重増加を起こしにくいことなどから、2型糖尿病治療における第一選択薬の一つとして広く使用されています。 

    しかし、糖尿病治療の第一選択薬は昔からメトグルコだったわけではありません。

    では、なぜメトグルコが第一選択薬として推奨されるようになったのでしょうか。

    この記事では、メトグルコの作用機序や副作用を改めて整理しながら、なぜ現在の糖尿病治療で重要な位置づけとなっているのかを薬剤師の視点からわかりやすく解説します。

    また記事の最後では、患者さんへどのように服薬指導を行えばよいかについても紹介します。


    ①かつてはSU剤が2型糖尿病治療の中心だった

    現在ではメトグルコが2型糖尿病治療の中心的な薬剤として広く使用されていますが、以前からそうだったわけではありません。

    かつて、2型糖尿病治療の中心となっていたのはSU剤でした。

    代表的な薬には、アマリール(一般名:グリメピリド)やオイグルコン(一般名:グリベンクラミド)などがあります。

    SU剤が長年にわたり広く使用されてきた理由は、血糖降下作用が非常に強力だったためです。

    SU剤は膵臓に直接作用してインスリン分泌を促進するため、内服開始後の比較的早い段階から血糖値の改善が期待できます。

    そのため、「とにかく血糖値を下げること」が重要と考えられていた時代には、非常に有用な薬剤でした。

    しかし、その一方で、インスリン分泌を強力に促進することから、低血糖や体重増加といった問題もありました。

    さらに近年では、低血糖リスクが少なく、長期的な安全性にも優れた薬剤が次々と登場したことから、現在ではSU剤が新規治療の第一選択として選択される機会は大きく減りました。

    糖尿病治療の考え方を一言でまとめるなら、

    「血糖値を下げる治療」から、「安全に長く治療を続ける治療」へ変化したといえるでしょう。

    では、そのような治療の変化の中で、なぜ現在メトグルコが2型糖尿病治療の第一選択薬として広く用いられるようになったのでしょうか。

    ②メトグルコの作用機序とは?

    メトグルコはビグアナイド薬に分類される薬です。

    今回の記事では2型糖尿病治療薬としてのメトグルコに着目し、血糖降下作用を中心に解説します。

    メトグルコは1950年代から世界中で使用されている歴史の長い薬であり、安全性や有効性に関するデータが豊富に蓄積されています。

    【1】肝臓の糖新生を抑制する

    メトグルコの最も重要な作用が、肝臓での糖新生を抑制することです。

    糖新生とは、主に肝臓で乳酸やアミノ酸、脂肪組織から放出されたグリセロールなどを材料として、新たにブドウ糖を作り出す生理的な代謝経路です。

    この仕組みによって、私たちは睡眠中や空腹時でも低血糖を起こすことなく、血糖値を一定に保つことができます。

    しかし、2型糖尿病ではインスリン抵抗性やインスリン分泌低下の影響により、肝臓での糖新生が過剰になっていることが少なくありません。

    その結果、早朝空腹時血糖の上昇につながることがあります。

    メトグルコは、この過剰な糖新生を抑えることで、肝臓から血液中へ放出されるブドウ糖の量を減らし、血糖値を低下させます。

    そのため、特に空腹時血糖を改善する効果が期待できます。



    【2】筋肉で糖を利用しやすくする

    メトグルコには、インスリンが効きやすい状態に改善する作用もあります。

    2型糖尿病では、インスリンが十分に分泌されていても、その作用が弱くなっていることがあります。

    メトグルコは、この状態を改善することで、筋肉細胞へブドウ糖を取り込みやすくします。

    筋肉は体内で最も多くのブドウ糖を利用する臓器であるため、筋肉での糖利用が増えることで血糖値の改善につながります。

    【3】腸からの糖吸収を抑える

    メトグルコには、腸管を介して食後血糖の上昇を抑える作用もあると考えられています。 

    その結果、食後に急激に血糖値が上昇するのを抑える効果が期待できます。

    また近年では、メトグルコによる腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化や、GLP-1分泌促進作用なども血糖改善効果に関与している可能性が報告されています。

    このようにメトグルコは、肝臓、筋肉、腸など複数の臓器に作用することで、血糖値を改善している薬なのです。

    ③なぜメトグルコは体重が増えにくいのか?

    SU剤やインスリン製剤では体重増加が問題となることがありますが、メトグルコでは体重増加が少なく、むしろ減少することもあります。

    その理由は以下のとおりです。

    • インスリン分泌を直接増やさない

    メトグルコは、SU剤のようにインスリン分泌を直接強力に促進する薬ではありません。

    インスリンには血糖値を下げるだけでなく、余った糖を脂肪として蓄える働きもあります。

    メトグルコはインスリン分泌を過剰に促進しないため、体重増加を起こしにくいと考えられています。

    • 食欲を抑える作用がある

    メトグルコには食欲を低下させる作用があることが知られています。

    また、血糖変動を改善することで、過度な空腹感を抑える可能性も考えられています。

    • GLP-1分泌を増やす可能性がある

    近年では、メトグルコが腸から分泌されるGLP-1(インクレチン)を増加させる可能性が報告されています。

    GLP-1には食欲を抑える作用や胃内容物の排出を遅らせる作用があるため、結果として食事量の減少につながると考えられています。

    そのため、メトグルコは肥満を伴う2型糖尿病患者でも使用しやすい薬剤となっています。

    ④メトグルコの副作用と服用時の注意点

    メトグルコは安全性の高い薬として世界中で広く使用されています。しかし、服用する際には副作用や注意点について理解しておくことも重要です。

    主な副作用

    メトグルコで最も多い副作用は消化器症状です。特に服用開始直後や増量時に起こりやすいことが知られています。

    主な症状は以下のとおりです。

    • 下痢
    • 悪心(吐き気)
    • 食欲不振
    • 腹痛

    これらの症状は、多くの場合、服用を続けるうちに軽快します。また、服用タイミングを変更することで胃腸症状が軽減することもあります。ただし、症状が強い場合には医師や薬剤師へ相談するようにしましょう。

    まれだが重要な副作用:乳酸アシドーシス

    メトグルコの重大な副作用として、頻度は非常に低いものの乳酸アシドーシスがあります。

    乳酸アシドーシスとは、体内に乳酸が過剰に蓄積し、血液が酸性に傾く状態です。

    メトグルコは乳酸を利用した糖新生を抑制する作用を持つため、脱水や腎機能低下などによって、薬剤が体内に蓄積すると、まれに乳酸アシドーシスを起こすことがあります。 

    初期症状として、以下のような症状が現れることがあります。

    • 強い倦怠感
    • 吐き気・嘔吐
    • 食欲不振
    • 筋肉痛
    • 呼吸が速くなる

    非常にまれな副作用ですが、重症化すると命に関わることもあるため注意が必要です。

    メトグルコ服用時の注意点

    【1】腎機能が低下している患者

    メトグルコは主に腎臓から排泄される薬です。

    腎機能が低下している患者さんでは、腎臓から排出される薬が体内に蓄積しやすくなるため、乳酸アシドーシスのリスクが高まる可能性があります。

    eGFRが低下している場合には、投与量の調整や慎重な経過観察が必要になります。

    【2】シックデイ

    発熱、嘔吐、下痢、食欲低下などによって十分な食事や水分が摂れない状態をシックデイと呼びます。

    シックデイでは脱水が起こりやすく、腎機能が悪化することで乳酸アシドーシスのリスクが高まる可能性があります。

    そのため、食事や水分が十分に摂れない場合には、一時的にメトグルコを休薬することがあります。

    また、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかった場合も、発熱や食欲低下、脱水を伴うことがあるため注意が必要です。

    さらに夏場は熱中症による脱水にも注意しましょう。

    【3】造影CT検査前後

    ヨード造影剤を使用するCT検査では、一時的に腎機能が低下することがあります。

    これは、ヨード造影剤による腎臓の血管収縮や尿細管への直接的な毒性によって、造影剤腎症を起こす可能性があるためです。

    腎機能が低下した状態でメトグルコが体内に蓄積すると、乳酸アシドーシスのリスクが高まることから、検査前後にメトグルコを一時中止する場合があります。

    施設によって差がありますが、検査前2日間と検査後2日間の計5日間程度休薬することもあります。

    近年では、eGFRや造影剤投与量などを考慮し、休薬の必要性を個別に判断することも多くなっています。

    休薬期間は検査内容や患者さんの腎機能などによって異なるため、必ず医師や医療スタッフの指示に従うようにしましょう。

    【4】過度の飲酒

    アルコールは肝臓における乳酸の代謝を妨げるため、体内に乳酸が蓄積しやすくなります。

    さらに、アルコールには利尿作用があり、脱水を引き起こすこともあります。脱水によって腎機能が低下すると、メトグルコが体内に蓄積しやすくなり、乳酸アシドーシスのリスクが高まる可能性があります。

    そのため、メトグルコ服用中の大量飲酒や空腹時の飲酒は避ける必要があります。なお、添付文書においても、過度のアルコール摂取者は禁忌とされています。

    【5】長期服用ではビタミンB12欠乏にも注意

    メトグルコを長期間服用している患者では、ビタミンB12の吸収が低下し、欠乏を起こすことがあります。

    ビタミンB12が不足すると、貧血やしびれなどの神経症状が現れることがあるため、長期服用中は定期的な確認が推奨されています。

    ⑤まとめ・薬剤師ならどう説明する?

    メトグルコは、低血糖リスクが少なく、体重増加を起こしにくいことに加え、心血管イベント抑制効果が報告されていることや、豊富なエビデンスを有していることから、現在でも2型糖尿病治療における第一選択薬の一つとして広く使用されています。

    一方で、すべての患者さんにメトグルコが第一選択となるわけではありません。

    近年の糖尿病治療では、心不全や慢性腎臓病、肥満の有無など、患者さん一人ひとりの背景に応じて薬剤を選択することが重視されています。

    そのため、患者さんによってはSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などが優先される場合もあります。

    今後新たなエビデンスが蓄積されれば、糖尿病治療の第一選択薬の考え方が変化する可能性もあるでしょう。

    薬剤師がメトグルコを初めて服用する患者さんへ説明する際には、例えば次のような声かけが考えられます。

    • 「この薬は主に肝臓で糖が作られすぎるのを抑えることで血糖値を下げる薬です。また、人によっては体重が減ることがありますので、服用開始後は定期的に体重を測定してみるとよいでしょう。」
    • 「飲み始めは下痢や吐き気が出ることがありますが、多くは続けるうちに改善します」
    • 「食事が摂れないときや発熱・下痢が続くときは、自己判断せず医療機関へ相談してください」

    また、継続服用中の患者さんに対しては、これらの点を確認することも重要です。

    • 胃腸症状はないか
    • シックデイ時の対応を理解しているか
    • 脱水や大量飲酒をしていないか
    • 腎機能やビタミンB12欠乏のリスクはないか

    現在の糖尿病治療は、「とにかく血糖値を下げる治療」ではなく、「患者さんが安全に長く健康に生活できること」を目標に薬剤を選択する時代になっています。
    メトグルコは、そのような現代の糖尿病治療を象徴する代表的な薬剤の一つといえるでしょう。