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  • 【薬剤師向け】エンレストとは?作用機序・適応・副作用・服薬指導をわかりやすく解説

    【薬剤師向け】エンレストとは?作用機序・適応・副作用・服薬指導をわかりやすく解説

    エンレストは近年、慢性心不全治療の中心的な薬として処方される機会が増えています。

    一方で、「最近よく見るけれど、学生時代には習っていないから、実はよく分かっていない…」という薬剤師の先生も多いのではないでしょうか。

    私自身も最初は、「ACE阻害薬とは36時間空ける」「BNPではなくNT-proBNPを見る」といったポイントを覚えるだけでした。

    しかし、作用機序を理解すると、これらの注意点にはすべて理由があることが分かります。

    この記事では、エンレストの作用機序や適応、副作用、服薬指導で確認したいポイントまで、現場で役立つ知識に絞ってわかりやすく解説します。


    ①エンレストとは?

    エンレストは、心不全や高血圧の治療に使用される医療用医薬品です。

    有効成分として、サクビトリルとバルサルタンの2種類を配合しています。

    従来の心不全治療ではACE阻害薬やARBが中心でしたが、エンレストはそれらとは異なる新しい作用を持つ薬として開発されました。

    ARNIとは?

    エンレストはARNI(Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)に分類されます。

    名前だけ見ると難しく感じますが、簡単に言えば、次の2つの働きを1つの薬にした製剤です。

    • ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
    • ネプリライシン阻害薬

    エンレストは世界で初めて実用化されたARNIでもあります。

    従来のARBによる作用に加え、ネプリライシンという酵素を阻害することで、心臓を保護する作用が期待できる薬となっています。

    サクビトリル+バルサルタンの配合剤

    エンレストは、次の2種類の有効成分から構成されています。

    • サクビトリル:ネプリライシンを阻害する成分
    • バルサルタン:ARBとしてレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)を抑制する成分

    それぞれ異なる作用を持つため、互いに補い合いながら心不全の改善や血圧低下に効果を発揮します。

    「2つの作用を1つにまとめた配合剤」と考えるとイメージしやすいでしょう。


    心不全・高血圧に使用される

    エンレストには、慢性心不全と高血圧症の適応があります。

    ただし、薬剤師が処方内容を確認する際には注意が必要です。

    エンレストは、適応によって使用する規格や用法・用量が異なるため、処方内容から心不全治療なのか、高血圧治療なのかをある程度推測することができます。

    この点は、処方監査で適応を確認する際や服薬指導を行う際にも役立つポイントであり、後ほど詳しく解説します。

    ②エンレストの薬理作用は?

    エンレストは、体内に存在する2つの仕組みに同時に働きかけることで、心臓への負担を軽減します。

    エンレストが働きかけるのは、次の2つの仕組みです。

    • レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)
    • ナトリウム利尿ペプチド系(ANP・BNP)

    まずは、それぞれの役割を見ていきましょう。

    RAAS(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)

    RAASは、血圧や体液量を維持するために働くホルモン系です。

    血圧の低下や、腎血流量が減少すると活性化され、次のような作用を示します。

    • 血管を収縮させる
    • ナトリウム・水分を体内へ保持する
    • 血圧を上昇させる

    これらは一時的には体を守る反応ですが、慢性的に活性化すると心臓の負担が増え、心不全を悪化させる原因になります。

    そのため、ACE阻害薬やARBは、このRAASを抑制することで心不全を改善してきました。

    エンレストに含まれるバルサルタンも、このRAASを抑制する役割を担っています。


    ネプリライシンとANP・BNP

    一方で、体にはRAASとは別に、心臓への負担を軽減しようとする仕組みも備わっています。

    それがナトリウム利尿ペプチド系です。

    代表的なのが、この2つです。

    • ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)
    • BNP(脳性〈B型〉ナトリウム利尿ペプチド)

    これらは心臓へ負担がかかると分泌され、このような作用があります。

    • 血管を拡張する
    • ナトリウム・水分を尿として排泄する
    • 心臓への負荷を軽減する

    つまり、ANPやBNPは心臓への負担を減らしてくれるホルモンなのです。

    ただ、ANPやBNPはネプリライシンという酵素によって分解されてしまいます。

    そのため、せっかく分泌されても十分な効果を発揮できないことがあります。  

    サクビトリルはネプリライシンを阻害することで、ANP・BNPが分解されにくくなります。 


    エンレストは「2つの作用」で心臓を守る薬

    エンレストは、この2つの仕組みに同時に作用します。

    • バルサルタンがRAASを抑制し、心臓への負担を軽減する
    • サクビトリルがネプリライシンを阻害し、ANP・BNPが分解されにくくなる

    その結果、このような効果が得られます。

    • 血管が拡張しやすくなる
    • 利尿作用が高まる
    • 心臓への負担が軽減する

    従来のARBは「RAASを抑える薬」でしたが、エンレストはそれに加えて体が本来持っている心臓を守る仕組みも強めることが大きな特徴です。

    だからこそ、慢性心不全に対して高い有効性が期待されています。

    ③エンレストの適応|どんな患者さんに使う?

    エンレエンには以下の適応があります。

    • 慢性心不全
    • 高血圧症

    同じ薬でも、病気によって使用する規格や用法・用量が異なるため、薬剤師は処方内容から「心不全なのか、高血圧なのか」をある程度推測することができます。

    慢性心不全

    エンレストが最も注目されている適応が慢性心不全です。

    心不全ではRAASが過剰に活性化し、心臓へ大きな負担がかかっています。

    この2つの作用が心臓への負担を軽減します。

    • バルサルタンによるRAASの抑制
    • サクビトリルによるANP・BNPの作用の増強

    これらが心不全の悪化や入院リスクを減らすことが期待されています。

    現在では、慢性心不全治療の中心的な薬剤の一つとして位置付けられています。

    高血圧症

    エンレストは高血圧症にも適応があります。

    ARBによる降圧作用に加え、ANP・BNPの作用が持続することで、血管拡張・利尿作用が働き、血圧を低下させます。

    ただし、高血圧症では一般的なARBやACE阻害薬、Ca拮抗薬などが第一選択となることが多く、エンレストはすべての高血圧患者へ使用される薬ではありません。

    規格と用法から適応を推測できる

    薬剤師が知っておきたいポイントの一つが、規格と用法・用量から適応を推測できることです。

    慢性心不全

    • 50mg・100mg・200mg
    • 1日2回服用

    患者さんの状態に応じて漸増し、200mgを1日2回まで増量することがあります。

    高血圧症

    • 100mg・200mg
    • 1日1回服用

    通常は1日1回投与で使用されます。

    つまり、このように推測できるケースが多いです。

    • 1日2回なら心不全
    • 1日1回なら高血圧


    服用回数が処方監査や服薬指導でも役立ちます。

    ただし、腎機能や血圧、忍容性などによって用法・用量が調整されることもあるため、必ずしもこのパターンだけではないことにも注意が必要です。

    ④エンレストの副作用・注意点

    エンレストは心不全治療に高い有効性が期待される一方で、いくつか注意すべきポイントがあります。

    処方監査や服薬指導では、次の点に注意するとよいでしょう。 

    腎機能の悪化

    RAASを抑制する作用により、一時的に腎機能が悪化することがあります。

    開始後や増量後には、血清クレアチニン(Cr)やeGFRの変化を確認することが重要です。

    高カリウム血症

    ARBを含むため、高カリウム血症にも注意が必要です。

    腎機能が低下している患者さんや、カリウム保持性利尿薬を併用している患者さんでは、定期的な血清カリウム値の確認が推奨されます。

    BNPとNT-proBNPの違い

    エンレストはネプリライシンを阻害するため、BNPは分解されにくくなり、エンレスト服用中は心不全症状が改善していてもBNPが高値となることがあります。

    そのめ、治療効果の判定にはNT-proBNP(エヌティープロビーエヌピー)が推奨されています。NT-proBNPはネプリライシンでは分解されないため、エンレストの影響を受けず、心不全の状態をより正確に評価できます。

    ACE阻害薬との切り替えは36時間空ける

    ACE阻害薬からエンレストへ切り替える場合は、36時間以上の休薬が必要です。

    これは、ブラジキニンが過剰に増加し、血管性浮腫のリスクが高まるためです。

    ARBから切り替える場合には、この36時間の休薬は不要です。

    これらの注意点は、服薬指導や処方監査で遭遇する機会が多いポイントです。

    ⑤薬剤師が服薬指導で確認したいポイント

    エンレストは作用機序を理解すると、服薬指導で確認すべきポイントも自然と見えてきます。

    ここでは、実際に私が確認したい内容と、患者さんへの聞き方の一例を紹介します。

    めまいやふらつきはないか

    エンレストは血管を拡張するため、低血圧を起こすことがあります。

    服薬開始後や増量後は特に注意が必要です。

    • 服薬指導の一例

    「立ち上がった時にフラッとすることはありませんか?」

    「最近、血圧が低くてしんどいと感じることはありませんか?」

    痛み止めを飲んでいませんか? 

    NSAIDsを併用すると、腎機能悪化や降圧作用の減弱につながることがあります。

    特に市販薬を自己判断で服用している患者さんもいるため、確認しておきたいポイントです。

    • 服薬指導の一例

    「腰痛や頭痛で、市販の痛み止めを飲むことはありますか?」

    「ロキソニンなどを続けて飲んでいませんか?」

    カリウム値が上がるようなサプリメントや食生活はしていないか?

    エンレストにはARB(バルサルタン)が含まれているため、高カリウム血症に注意が必要です。

    • 服薬指導の一例

    「カリウムのお薬やサプリメントは飲んでいませんか?」

    「健康食品や青汁なども飲まれていたら教えてください。」

    ACE阻害薬からの切り替えではありませんか?

    ACE阻害薬からエンレストへ切り替える場合は、36時間以上の休薬が必要です。

    休薬せずに開始すると、血管性浮腫のリスクが高まります。

    • 服薬指導の一例

    「以前はエナラプリルやイミダプリルなどのお薬を飲んでいませんでしたか?」

    「ACE阻害薬を最後に服用したのはいつですか?」

    処方監査の段階でも必ず確認しておきたいポイントです。

    心不全の患者さんなら体重は測っていますか?

    心不全では、体重増加が悪化のサインになることがあります。

    毎日同じ条件で体重を測定することは、自己管理の基本です。

    • 服薬指導の一例

    「毎日体重は測っていますか?」

    「2〜3日で2kg以上増えていませんか?」

    息切れや足のむくみなど、心不全症状の変化についてもあわせて確認するとよいでしょう。

    ⑥ まとめ

    エンレストは「心不全の薬」というイメージだけで覚えるのではなく、作用機序まで理解することで、副作用や服薬指導で確認すべきポイントが自然とつながって見えてきます。

    日々の服薬指導では、めまいやふらつき、NSAIDsとの併用、カリウム値への影響、ACE阻害薬からの切り替えなどを意識して確認することで、副作用の早期発見や安全な薬物療法につながります。

    心不全の患者さんは長期間にわたって治療を続けることが多いため、薬剤師が患者さんの小さな変化に気付き、適切なアドバイスを行うことはとても重要です。

    この記事が、エンレストを理解するきっかけとなり、明日からの処方監査や服薬指導に役立てていただければ幸いです。

  • ビタミンB6とは?筋肉・脳・神経への働きや多く含む食品、医薬品まで薬剤師が解説

    ビタミンB6とは?筋肉・脳・神経への働きや多く含む食品、医薬品まで薬剤師が解説

    ビタミンB6は、アミノ酸(タンパク質)の代謝や脳・神経の働きに関わっています。

    筋肉の維持や神経伝達物質の合成にも関わるため、私たちの体にとって非常に重要な役割を担っています

    では、なぜビタミンB6は筋肉や脳・神経の健康維持に重要なのでしょうか。

    この記事では、ビタミンB6の作用機序や体内での働き、神経伝達物質との関係、多く含まれる食品、医薬品としての使われ方について、薬剤師の視点からわかりやすく解説します。


    ①ビタミンB6とは?体内での働きをわかりやすく解説

    ビタミンB6は、ビタミンB群の一つで、アミノ酸(タンパク質)の代謝に欠かせない栄養素です。

    体内では、PLP(ピリドキサールリン酸)という補酵素に変換され、多くの酵素反応を助けています。

    PLPは100種類以上の酵素反応に関わるとされ、特にアミノ酸の分解や合成、神経伝達物質の合成などに重要な役割を果たしています。

    私たちの体を構成する細胞や組織の多くは、アミノ酸(タンパク質)が材料として作られています。

    例えば、次のようなものもタンパク質(またはアミノ酸)を材料として作られています。

    • 筋肉
    • 皮膚
    • 酵素
    • ホルモン
    • 神経伝達物質

    しかし、食事から摂取したタンパク質は、そのまま体で利用されるわけではありません。

    一度アミノ酸へ分解され、その後、必要に応じて筋肉や皮膚、酵素、ホルモンなどのタンパク質へと組み立て直されます。

    この一連の反応を助けているのが、ビタミンB6です。

    そのため、ビタミンB6は筋肉だけでなく、皮膚や脳、神経など、全身の健康を支える重要なビタミンといえます。

    ②ビタミンB6はなぜ筋肉・脳・肌によいの?

    ここからがビタミンB6の一番面白いところです。

    ビタミンB6は「タンパク質の代謝を助けるビタミン」とよく紹介されますが、それだけではありません。

    実は筋肉や皮膚だけでなく、神経伝達物質の合成にも関わることで、脳や神経の正常な働きも支えています。

    では、ビタミンB6はどのような仕組みで体のさまざまな場所を支えているのでしょうか。

    アミノ酸の代謝を助け、筋肉の維持や修復を支える

    筋肉は主にタンパク質からできています。

    食事で摂取したタンパク質は、そのまま筋肉になるわけではなく、一度アミノ酸へ分解され、必要に応じて再び筋肉や酵素、ホルモンなどの材料として利用されます。

    ビタミンB6は、このアミノ酸の分解や合成を助ける補酵素として働いています。

    そのため、筋肉の維持や運動後の修復だけでなく、酵素やホルモンなど体内のさまざまなタンパク質を作るうえでも重要な栄養素です。


    神経伝達物質の合成を助け、脳や神経の正常な働きを支える

    ビタミンB6は、神経伝達物質を作る際にも欠かせない補酵素です。

    ・セロトニン(精神の安定)

    ・ドーパミン(意欲・やる気)

    ・GABA(興奮を抑える) 

    これらは脳や神経で情報を伝える役割を持ち、気分や意欲、睡眠、集中力など、私たちのさまざまな生命活動に関わっています。

    ビタミンB6はこれらの神経伝達物質を直接増やす薬ではありませんが、正常に合成するために欠かせない栄養素です。

    特に、神経の興奮を抑える働きをもつGABAは、ビタミンB6が補酵素として働くことで合成されます。

    そのため、ビタミンB6が不足したり、その働きが阻害されたりすると、GABAが十分に作られず、脳が興奮しやすい状態となり、けいれんを引き起こすことがあります。

    身近な例では、銀杏(ぎんなん)の食べ過ぎによる銀杏中毒があります。銀杏に含まれるギンコトキシン(4’-O-メチルピリドキシン)はビタミンB6の働きを阻害するため、GABAの合成が低下し、けいれんの原因となることがあります。

    通常量の銀杏を食べて問題になることはほとんどありませんが、一度に大量に摂取すると発症することがあるため注意が必要です。

    また、生まれつきビタミンB6(PLP)を十分に利用できないビタミンB6依存性てんかんでも、GABAの合成が障害され、けいれんが起こることが知られています。

    皮膚の健康を維持する

    ビタミンB6は、皮膚を構成するタンパク質の合成や代謝を助けることで、皮膚細胞の正常な生まれ変わり(ターンオーバー)を支えています。

    そのため、不足すると皮膚や粘膜の細胞が正常に生まれ変わりにくくなり、皮膚炎や口角炎、口内炎などの症状が現れやすくなります。

    また、ビタミンB6は皮脂分泌の調節にも関与していることから、ニキビや脂漏性皮膚炎の治療で補助的に使用されることもあります。

    ただし、ビタミンB6を多く摂取したからといって、誰でも肌がきれいになるわけではありません。

    不足している人では症状の改善が期待できますが、健康な肌を維持するためには、ビタミンB6だけに頼るのではなく、栄養バランスの良い食事と規則正しい生活習慣を心掛けることが大切です。

    ③ビタミンB6を効率よく摂取するには?

    ビタミンB6を多く含む食品

    ビタミンB6は、肉や魚などの動物性食品だけでなく、豆類や野菜、果物にも含まれています。

    代表的な食品には次のようなものがあります。

    可食部100gあたりのおよその含有量を示していますが、食品の状態や調理法によって多少前後します。

    • にんにく (1.53mg)
    • 牛レバー (0.89mg)
    • まぐろ(赤身) (0.85mg)
    • かつお (0.76mg)
    • 鶏むね肉(皮なし) (0.64mg)
    • 鶏ささみ (0.64mg)
    • 豚ヒレ肉 (0.45mg)
    • バナナ (0.38mg)
    • まいわし (0.37mg)
    • さんま (0.33mg)
    • じゃがいも (0.30mg)
    • 納豆 (0,24mg)
    • アボカド (0.23mg)
    • ブロッコリー (0.22mg)
    • 玄米(炊飯) (0.21mg)

    ※参考文献:文部科学省『日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』

    ビタミンB6は水溶性ビタミンですが、比較的熱には強いとされています。

    一方で、水に溶け出しやすい性質があるため、野菜をゆでる場合は煮汁ごと食べられるスープや味噌汁などにすると効率よく摂取できます。

    また、ビタミンB6はタンパク質の代謝を助けるビタミンであるため、タンパク質を多く摂取する人ほど必要量も増えることが知られています。

    筋力トレーニングをしている方や高タンパク食を意識している方は、肉や魚だけでなく、ビタミンB6もあわせて摂取することが大切です。

    ビタミンB6欠乏症

    ビタミンB6が不足すると、アミノ酸の代謝や神経伝達物質の合成が十分に行われにくくなります。

    その結果、次のような症状が現れることがあります。

    • 口角炎
    • 舌炎
    • 口内炎
    • 脂漏性皮膚炎
    • 手足のしびれ
    • 貧血
    • けいれん(重度の欠乏時)

    ビタミンB6は通常の食生活で不足することはあまりありませんが、このような習慣がある人は不足することがあります。

    • 偏食が多い人
    • ダイエット中の人
    • 飲酒量が多い人
    • 高齢者

    また、ビタミンB6は脳内で神経伝達物質を作る際にも必要なため、不足すると神経機能にも影響を及ぼすことがあります。

    ビタミンB6過剰症

    ビタミンB6は水溶性ビタミンであり、通常の食事量で過剰症が問題になることはほとんどありません。

    しかし、サプリメントなどで長期間にわたり大量摂取すると、感覚神経障害が起こることがあります。

    代表的な症状には次のようなものがあります。

    • 手足のしびれ
    • 感覚が鈍くなる
    • 歩きにくい
    • ふらつき

    この神経障害は大量摂取を中止することで改善することが多いものの、重症では回復まで時間がかかる場合もあります。

    「ビタミンだから安全」と自己判断で大量に摂取するのではなく、サプリメントを利用する際は推奨量を守ることが大切です。

    ビタミンB6は1日にどれくらい摂ればよい?

    日本人の食事摂取基準(2025年版)では、ビタミンB6の推奨量は年齢や性別によって定められています。

    日本人全体としてビタミンB6が大きく不足しているわけではありません。

    しかし、偏食や過度なダイエット、飲酒習慣などにより不足する人は少なくありません。また、タンパク質の摂取量が多い人では必要量も増えるため、日頃から肉や魚、豆類などとあわせてビタミンB6を含む食品を意識して摂取することが大切です。

    ④医薬品としてのビタミンB6

    ビタミンB6は食品やサプリメントだけでなく、医療用医薬品としても使用されています。

    単に「ビタミンを補う薬」というだけではなく、神経障害の予防や治療、薬の副作用対策など、さまざまな場面で活用されています。

    ビタミンB6製剤にはどんな種類がある?

    医療現場で使用されるビタミンB6製剤には、主に次のようなものがあります。

    • ピリドキシン塩酸塩
    • ピリドキサールリン酸(PLP)
    • ビタミンB群配合剤
    • 一般用医薬品(OTC医薬品)

    ピリドキシンは体内で活性型であるPLP(ピリドキサールリン酸)へ変換され、アミノ酸代謝や神経伝達物質の合成を助ける補酵素として働きます。

    また、ビタミンB6は単剤だけでなく、ビタミンB群配合剤や総合ビタミン剤にも含まれています。一般用医薬品(OTC医薬品)では、口内炎や肌荒れ、疲労時のビタミン補給を目的とした製品にも広く配合されています。

    実際にはどんな病気で処方される?

    ビタミンB6製剤は、ビタミンB6欠乏症だけでなく、次のような疾患や病態に対して処方されます。

    • ビタミンB6欠乏症
    • 妊娠悪阻(つわり)
    • 末梢神経炎
    • イソニアジド服用時のビタミンB6欠乏予防
    • 放射線治療に伴う悪心・嘔吐
    • 一部の抗悪性腫瘍薬による副作用の補助療法

    このように、ビタミンB6は単なる栄養補給ではなく、病気の治療や薬の副作用対策としても利用されています。

    イソニアジドでビタミンB6が処方される理由

    結核の治療薬であるイソニアジド(INH)を服用すると、ビタミンB6の働きが低下することがあります。

    これは、イソニアジドがビタミンB6と結合し、活性型であるPLPの量を減少させるためです。

    その結果、次のような副作用が起こる可能性があります。

    • 手足のしびれ(末梢神経障害)
    • けいれん

    そのため、イソニアジドを長期間服用する患者さんでは、これらの副作用を予防する目的でビタミンB6が併用されることがあります。

    注射薬はどんな時に使われる?

    ビタミンB6には注射薬もあり、病院では内服が難しい患者さんや、速やかな補充が必要な場合に使用されます。

    例えば、次のようなケースです。

    • ビタミンB6欠乏症
    • 高カロリー輸液(TPN)による栄養管理
    • ビタミンB6依存性てんかん
    • 重症の妊娠悪阻などで内服が困難な場合

    特に高カロリー輸液(TPN)を行う患者さんでは、ビタミンB6を含むビタミン製剤を点滴へ混合して投与することが一般的です。

    服用時の注意点(テオフィリン・レボドパなど)

    ビタミンB6は比較的安全性の高いビタミンですが、一部の薬剤との相互作用には注意が必要です。

    • テオフィリン

    気管支喘息やCOPDなどで使用されるテオフィリンを長期間服用している患者さんでは、ビタミンB6代謝への影響が指摘されています。

    ビタミンB6は神経伝達物質であるGABAの合成にも関与しているため、ビタミンB6代謝の低下は、けいれんリスクとの関連が議論されています。

    ただし、通常の治療で問題となることは多くなく、必要に応じて医師がビタミンB6を併用することがあります。

    • レボドパ

    パーキンソン病治療薬であるレボドパ単剤では、ビタミンB6によってレボドパの末梢代謝が促進され、薬の効果が弱くなることがあります。

    しかし現在主流となっているこれらの配合剤ではほとんど問題になりません。

    • レボドパ・カルビドパ配合剤
    • レボドパ・ベンセラジド配合剤

    そのため、現在の日常診療で過度に心配する必要はありませんが、薬剤師として知っておきたい相互作用の一つです。

    ⑤まとめ

    ビタミンB6は、水溶性ビタミンに分類されるビタミンB群の一つで、アミノ酸(タンパク質)の代謝や神経伝達物質の合成に欠かせない栄養素です。

    そのため、筋肉や皮膚、脳や神経など、全身の健康維持を支える重要な役割を担っています。

    不足すると、口内炎や皮膚炎、末梢神経障害などの症状が現れることがあるため、日頃からビタミンB6を含む食品をバランスよく摂取することが大切です。

    また、医療現場では欠乏症だけでなく、妊娠悪阻やイソニアジドによる副作用予防など、さまざまな場面で活用されています。

    ビタミンB6は、筋肉・脳・肌の健康を陰で支える「アミノ酸代謝の立役者」です。毎日の食事を基本に、健康づくりへ役立てていきましょう。