「味の素などの化学調味料は、人工的に作られているから体に悪い」
「子どもには食べさせないほうがいい」
「手間暇かけて作った料理のほうが美味しい」
味の素に対して、そんなイメージを持っていませんか?
そもそも、味の素とは一体何なのでしょうか?
なぜ料理に加えると「うま味」が増すのでしょうか?
そして、本当に体に悪いのでしょうか?
今回は、科学が得意な薬剤師!?である私が、味の素を題材に、
「化学調味料とは何なのか」
「旨味はどのように感じるのか」
「子どもが食べても大丈夫なのか」
など、身近な疑問を科学的に解説していきます。
「化学物質=体に悪い」ではありません。
味の素をきっかけに、普段何気なく口にしている食品を、科学的な視点から見てみましょう。
① 化学調味料とは?
まず、「化学調味料」とは一体何なのでしょうか?
実は、「化学調味料」という言葉には、法律などで定められた明確な定義はありません。
昭和の時代から、うま味成分を使った調味料を指す言葉として広く使われてきましたが、現在では「うま味調味料」という呼び方が一般的です。
「化学」という言葉から人工的で体に悪いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、名前だけで安全性を判断することはできません。
次は、味の素をどのような成分が含まれているかなど化学的な視点から見ていきましょう。

② 味の素って何?化学的に分析してみよう
ここからは、薬剤師らしく「味の素」を化学的な視点から見てみましょう。
味の素の成分
「味の素」は、うま味成分を組み合わせた調味料で、以下の3成分からできています。
・L-グルタミン酸ナトリウム:97.5%
・5’-イノシン酸二ナトリウム:1.25%
・5’-グアニル酸二ナトリウム:1.25%
味の素のうま味成分はナトリウム塩になっていますが、これは人工の化学物質だからというわけではありません。
画像にもあるように、グルタミン酸ナトリウムは、グルタミン酸のナトリウム塩です。

また、天然の食品中でも、グルタミン酸はイオンの状態などで存在しています。
ナトリウム塩にすることで、水に溶けやすく、調理に使いやすい形になっています。
一方で、ナトリウムを含むため、味の素の使用量によってはナトリウムの摂取量にも影響します。ナトリウム量と食塩(塩化ナトリウム)の量は、同じものではありません。
うま味成分を含む自然食品
そして、これらのうま味成分は、味の素だけに存在する特殊な物質ではありません。
昆布にはグルタミン酸、肉や魚にはイノシン酸、椎茸にはグアニル酸など、私たちが普段食べている食品にも、うま味に関わる成分が含まれています。

では、これらの成分を口にすると、なぜ私たちは「美味い!」と感じるのでしょうか?
③ うま味とは
私たちが感じる味には、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5つがあります。
では、料理に含まれる「うま味成分」は、どのようにして「おいしい」という感覚につながるのでしょうか?
うま味成分が舌の味細胞にある受容体に結合し、その情報が神経を通って脳へ伝わることで、私たちは「うま味」を感じています。
グルタミン酸とうま味受容体
まず、味を感じる入り口となるのが、舌の表面などに存在する「味蕾(みらい)」です。
味蕾は、舌などに存在する小さな器官で、その中には味を感じ取る味細胞があります。
料理に含まれるグルタミン酸をはじめとするうま味成分が味蕾に到達すると、味細胞の表面にあるうま味受容体によって認識されます。
うま味の受容体として代表的なのが、T1R1/T1R3という受容体です。
うま味がこの受容体を刺激すると、味細胞の中で細胞内シグナルが生じ、最終的に神経へ「うま味」の情報が伝えられます。
この情報は、顔面神経や舌咽神経などを介して脳へ伝わり、最終的に大脳で味として認識されます。

うま味の相乗効果
ここで、うま味には面白い特徴があります。
それが、「うま味の相乗効果」です。
グルタミン酸だけでもうま味を感じますが、イノシン酸(IMP)やグアニル酸(GMP)が一緒に存在すると、うま味をより強く感じることが知られています。
これらは、食品に含まれる代表的なうま味成分です。
- 昆布 → グルタミン酸
- かつお節・肉 → イノシン酸
- 椎茸 → グアニル酸
例えば、昆布とかつお節を組み合わせた「合わせだし」では、グルタミン酸とイノシン酸が組み合わさることで、より強いうま味を感じやすくなります。
では、なぜ2つを組み合わせると、うま味が強くなるのでしょうか?
うま味受容体であるT1R1/T1R3では、グルタミン酸が受容体に結合することで、うま味のシグナルが生じます。そこにイノシン酸やグアニル酸が別の部位に結合すると、受容体の活性化がさらに強まり、うま味のシグナルが増強されます。
つまり、グルタミン酸とイノシン酸・グアニル酸は、それぞれが別々の受容体を刺激するのではなく、同じT1R1/T1R3受容体上で協調して作用することで、うま味を強く感じさせるのです。

どうすれば料理のうま味が増す?
では、この科学を料理に応用するとどうなるのでしょうか?
ポイントは、異なる種類のうま味成分を組み合わせることです。
先ほど紹介したように、グルタミン酸とイノシン酸、グアニル酸などを組み合わせることで、うま味の相乗効果が期待できます。
例えば、グアニル酸を含む椎茸を昆布やかつお節と組み合わせることでも、うま味を引き立てることができます。
つまり、うま味を増やしたいなら、同じうま味成分をたくさん入れるだけではなく、「異なるうま味成分を組み合わせる」ことがポイントです。
これは、味の素を使う場合にも同じです。
味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムに、料理に含まれるイノシン酸などが組み合わさることで、うま味の相乗効果が期待できます。
昆布とかつお節の合わせだしも、味の素を料理に加えることも、「異なるうま味成分を組み合わせる」という同じ科学的な原理で説明できます。
では、そんな味の素が、なぜ「体に悪い」というイメージを持たれるようになったのでしょうか?
④ なぜ味の素が体に悪いイメージを持たれるのか
味の素は人工的に作られているから、体に悪そうと感じる人もいるかもしれません。
では、なぜ味の素は体に悪いと考えられるようになったのでしょうか?
こうしたイメージには、料理漫画や、中華料理店症候群(MSG症候群)に関する報告などが影響しています。
「美味しんぼ」などによるイメージ
味の素に対するイメージを考えるうえで、料理や食に関するメディアの影響も無視できません。
例えば、漫画『美味しんぼ』では、化学調味料について否定的に描かれる場面があります。
こうした作品を通じて、「化学調味料は体に悪い」「本格的な料理には使わないもの」といったイメージを持った人もいるのではないでしょうか。
個人的な解釈ですが、化学調味料が体に悪いという根拠を示すことよりも、美食を追い求める姿勢を表現したかったのではないかと思っています。

中華料理店症候群(MSG症候群)
もう一つ、味の素のイメージに大きく関係したのが、中華料理店症候群です。
1968年、中国料理を食べた後に、しびれや動悸などの症状が起こったという報告が医学雑誌に掲載され、その原因の一つとしてグルタミン酸ナトリウム(MSG)が疑われました。
その後、MSGを食べると頭痛やほてりなどの症状が起こるという話が広まり、「MSG=体に悪い」というイメージにつながっていきました。
その後、MSGとこうした症状との関係について、さまざまな研究が行われました。
現在までの研究では、一般的な食事で摂取するMSGが、多くの人に頭痛などの症状を引き起こすという一貫した科学的根拠は確認されていません。
では、子どもが味の素を食べる場合はどうなのでしょうか?
また、何歳から使えるのでしょうか?
こんな議論もあります
味の素をめぐる「天然だしが良いのか、うま味調味料を使ってもよいのか」という議論は、現在でも話題になることがあります。
例えば、2025年には堀江貴文さんと料理人のこめおさんによる、味の素をめぐるやり取りが話題になりました。
⑤ 子どもが味の素を食べても大丈夫?何歳から?
「味の素は化学調味料だから、子どもには食べさせないほうがいい」と考えている方もいるかもしれません。
では、実際に子どもが味の素を食べても大丈夫なのでしょうか?
また、何歳から使えるのでしょうか?
子どもへの安全性
結論からいうと、グルタミン酸ナトリウム(MSG)そのものを、子どもだから危険と考える必要はありません。
グルタミン酸ナトリウムは、国際的な食品安全評価でも安全性が評価されている食品添加物です。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)では、グルタミン酸およびその塩類について、許容一日摂取量(ADI)を「特定しない(Not specified)」と評価しています。
参考資料:消費者庁「食品添加物」
また、味の素の主成分であるグルタミン酸ナトリウムは、グルタミン酸とナトリウムからなる物質です。グルタミン酸は、肉や魚、野菜など、さまざまな食品にも含まれています。
そのため、「化学調味料だから子どもには危険」という考え方は適切ではありません。
何歳から使える?
では、「味の素は何歳から使えるの?」という疑問についてはどうでしょうか。
味の素は、年齢制限が定められている食品ではありません。
食品や調味料は、医薬品のような一律の年齢制限で考えるものではなく、子どもの成長段階や食事全体の味付けなどを考えて使用します。
そのため、「○歳になったら味の素を使ってよい」と考えるよりも、食事全体のバランスや食塩の摂取量などを考えながら使用することが大切です。
味の素そのものと、料理全体の塩分は分けて考える
味の素の主成分であるグルタミン酸ナトリウムにはナトリウムが含まれていますが、味の素と食塩(塩化ナトリウム)は同じものではありません。
子どもの食事で大切なのは、味の素だけではなく、醤油や味噌、加工食品などを含めた食事全体の食塩量や味付けです。
また、離乳食の時期は、うま味調味料を積極的に使う必要はなく、昆布やかつお節などの自然なだしの味を経験しながら、素材の味に慣れていくことが大切です。
つまり、「味の素だから子どもにはダメ」と考えるのではなく、成長段階に合わせて薄味を心がけ、食事全体のバランスを見ることが重要です。
では、大人も含めて、味の素は健康に悪いのでしょうか?
発がん性についてはどうなのでしょうか?
⑥ 味の素は健康に悪い?発がん性は?
味の素の健康への影響と安全性
では、味の素は本当に健康に悪いのでしょうか?
結論からいうと、通常の食品に調味料として使用する範囲で、グルタミン酸ナトリウムに大きな健康上の懸念は認められていません。
国際的な食品安全評価を行うJECFAや、アメリカFDAなども、グルタミン酸ナトリウムを通常の使用範囲で安全性に問題のないものとして評価しています。
また、食品の安全性は「天然か人工か」だけで決まるものではありません。
グルタミン酸は肉や魚、トマトなどにも自然に含まれるアミノ酸で、味の素に含まれるグルタミン酸ナトリウムも、体内ではグルタミン酸となり、食品に自然に含まれるグルタミン酸と化学的には同じ物質です。
味の素は発がん性があるのか
では、味の素には発がん性があるのでしょうか?
現在の科学的な評価では、グルタミン酸ナトリウムを発がん性物質として扱う根拠はありません。
JECFAなどの食品安全評価でも、通常の食品用途における安全性が評価されています。
そのため、通常の使用量で味の素を「発がん性のある危険な調味料」と考える必要はありません。
⑦ まとめ
天然だしには、素材そのものの風味を楽しめる良さがあります。一方、味の素には、手軽にうま味を加えられるというメリットがあります。
忙しい毎日の中では、どちらか一方にこだわるのではなく、料理や状況に合わせて上手に使い分けるのも一つの方法です。
また、うま味を活用することで、塩分を減らしても料理のおいしさを保ちやすくなり、減塩につながる可能性もあります。
大切なのは、「天然だから良い」「化学調味料だから悪い」と決めつけるのではなく、特徴を理解したうえで上手に取り入れることです。
