タムスロシン(ハルナール)は、前立腺肥大症に伴う排尿障害などに用いられる薬です。
しかし、排尿障害への効果や一般的な副作用のほかにも、薬剤師として知っておきたいことはまだまだあります。
例えば、次のようなポイントです。
- 白内障手術を受ける患者さんへの確認
- 尿管結石に対する処方意図の理解
- 食後に服用する理由
- 射精障害への対応
一見、マニアックな知識に思えるかもしれませんが、こうした知識があれば、処方内容をより深く理解したり、患者さんからの質問に根拠をもって答えたりすることにつながります。
今回は、タムスロシンの基本的な作用だけでは見えてこない、薬剤師として知っておきたい知識を深掘りして解説します。
目次
① タムスロシンとは
・薬理作用
・適応
・副作用
② 眼科手術の際に注意すること
・術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)で手術が困難に
・α1A受容体遮断作用の瞳孔散大筋への影響
・過去のタムスロシン服用歴にも注意
・それぞれの診療科に情報提供する
③ 実は「女性」や「若者」に処方されることがある
・タムスロシンは尿管結石の排石を促す
・尿管平滑筋弛緩により尿管結石を排出
・尿管結石の処方解析
④ 食事の影響|食後服用の本当の理由
・タムスロシンは食後服用で血中濃度低下
・噛み砕くのはNG|粉砕は原則不可
➄ 射精障害
・射精の生理作用にα1A受容体が関与
・発現頻度は低い数字ではない
・患者さんが相談しづらい副作用
⑥ まとめ
① タムスロシンとは
薬理作用
タムスロシンはα1受容体遮断薬であり、特にα1A受容体への選択性が高く、α1D受容体にも作用します。
α1A受容体は前立腺や尿道の平滑筋に多く存在します。
α1A受容体が刺激されると平滑筋が収縮しますが、タムスロシンが受容体を遮断することで平滑筋の緊張が緩和され、排尿がスムーズになります。
一方、α1D受容体も膀胱などの下部尿路に存在し、排尿機能に関与しています。
タムスロシンはα1A受容体だけでなく、α1D受容体にも作用する点が特徴です。

適応
前立腺肥大症に伴う排尿障害
副作用
タムスロシンでは、めまい、ふらつき、立ちくらみなどに注意が必要です。
α1受容体遮断作用により血圧が低下し、転倒につながる可能性があります。

また、重大な副作用として、以下が報告されています。
- 失神
- 意識消失
- 肝機能障害
- 黄疸
失神・意識喪失は血圧低下に伴って起こることがあります。
また、肝機能障害ではAST・ALTの上昇などがみられる場合があります。
患者さんの自覚症状だけでなく、必要に応じて血圧や血液検査の結果も確認することが大切です。
出典:ハルナールD錠 添付文書
② 眼科手術の際に注意すること
術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)で手術が困難に
タムスロシンを服用している患者さんが白内障手術を受ける際には、術中虹彩緊張低下症候群(IFIS:Intraoperative Floppy Iris Syndrome)に注意が必要です。
IFISとは、手術中に虹彩が柔らかくなってひらひらと動いたり、瞳孔が徐々に小さくなったりする状態です。
手術操作が難しくなり、合併症のリスクが高まる可能性があります。

α1A受容体遮断作用の瞳孔散大筋への影響
なぜ、排尿障害の治療薬であるタムスロシンが、眼科手術に影響するのでしょうか。
その理由は、瞳孔を広げる働きを持つ「瞳孔散大筋」にもα1A受容体が存在するためです。
通常、α1A受容体が刺激されると瞳孔散大筋が収縮し、瞳孔が広がります。
しかし、タムスロシンのα1A受容体遮断作用により瞳孔散大筋の収縮が抑制されることで、瞳孔が小さくなりやすくなるほか、虹彩の動きが不安定になり、IFISにつながると考えられています。
過去のタムスロシン服用歴にも注意
IFISは、タムスロシンの服用中だけでなく、中止後も発生することがあります。
海外の製品情報では、白内障手術の1〜2週間前に中止することが有用な可能性は示されていますが、その有効性や適切な中止期間は確立されていません。
実際に、タムスロシンなどのα1A受容体選択性遮断薬では、休薬から1年以上経過してもIFISが発生した症例が報告されています。
白内障手術を受ける患者さんには、現在の服用状況だけでなく、過去の服用歴も眼科医に伝えてもらうことが大切です。
出典
全日本民医連 タムスロシン服用患者の白内障手術におけるIFIS
それぞれの診療科に情報提供する
白内障手術を受ける患者さんでは、タムスロシンだけでなく、シロドシン(ユリーフ)など、IFISとの関連が報告されているα1遮断薬についても服用歴を確認しましょう。
また、患者さんが眼科に薬の情報を伝えていない可能性もあるため、手術予定が分かった場合は、現在の服用状況や過去の服用歴を確認し、必要に応じて眼科医と泌尿器科医に情報を共有することが重要です。

③ 実は「女性」や「若者」に処方されることがある
タムスロシンは尿管結石の排石を促す
タムスロシン(ハルナール)は、前立腺肥大症に伴う排尿障害の薬なので、主に高齢男性に処方されるイメージがあるかもしれません。
しかし、まれに若い男性や女性に処方されることもあります。
その理由として、尿管結石の自然排出を促す目的である可能性が考えられます。

尿管平滑筋弛緩により尿管結石を排出
尿管にはα1受容体が存在し、刺激されると尿管の平滑筋が収縮します。
タムスロシンがα1受容体を遮断すると、尿管の平滑筋が弛緩し、結石が自然に排出されやすくなると考えられています。
このように薬物によって結石の排出を促す治療は、排石促進療法(MET:Medical Expulsive Therapy) と呼ばれます。
国内のガイドラインでも、尿管結石の排出を促す目的でα1受容体遮断薬の使用が条件付きで推奨されています。
尿管結石の処方解析
処方薬の組み合わせから尿管結石を推測できることがあるかもしれません。
タムスロシンとNSAIDsや鎮痙薬の組合せって…尿管結石?!
なんて処方解析ができるかもしれません。
また、医師から水分摂取について指導されたり、結石排出後はタムスロシンを休薬するように指示されることがあります。
尿管結石の排石促進を目的としたα1受容体遮断薬の使用は、日本では適応外使用となっています。
④ 食事の影響|食後服用の本当の理由
タムスロシンは食後服用で血中濃度低下
タムスロシンは食後に服用となっていますが、その理由の一つは、食事によって薬の吸収や血中濃度が変化するためです。
先発品ハルナールの製品情報では、食後に服用した場合、空腹時と比べて最高血中濃度(Cmax)が約69%、薬の総曝露量(AUC)が約83%となっています。
タムスロシンには、めまいや起立性低血圧(立ちくらみ)などの副作用があります。
薬物動態も意識して、患者さんが食後の用法を守って服用できているか確認することも、薬剤師の重要な役割です。
噛み砕くのはNG|粉砕は原則不可
タムスロシンのOD錠は、口の中で速やかに崩壊するため、水なしでも服用できます。
ただし、口の中で溶けることと、薬の成分が速やかに放出されることは別です。
タムスロシンは徐放性顆粒が錠剤中に含まれているので、OD錠であっても、かみ砕いて服用してはいけません。
粉砕も同様に徐放性を損なうおそれがあるため、原則不可となっています。
➄ 射精障害
射精の生理作用にα1A受容体が関与
タムスロシンの副作用の一つに、射精障害があります。
射精には、α1A受容体刺激による膀胱頸部、精管、精嚢の平滑筋の収縮が関与しており、精液を尿道へ送り出すことや、膀胱への逆流を防ぐはたらきがあります。
タムスロシンがα1A受容体を遮断すると、射精時に精液が出にくくなったり、出なくなったりすることがあります。
タムスロシンやシロドシンのようなα1A受容体への選択性が高い薬では、射精障害に注意が必要です。
発現頻度は低い数字ではない
射精障害の発現頻度は、国内外のいくつかの資料に記載があり、数%から10%を超えるものまで様々です。
射精障害は稀な副作用と言い切れません!
射精障害は、必ずしも痛みなどの身体症状を伴うわけではありません。
しかし、生活の質(QOL)に影響することがあり、妊娠を希望している場合には、精液が出にくくなることが問題となる可能性もあります。
また、デリケートな症状であるため、射精障害が起こっても、患者さん自身が医療従事者に相談しにくい場合も考えられます。
患者さんが相談しづらい副作用
射精障害は原因薬剤の中止や変更によって改善する場合がありますが、自己判断で服用を中止せず、主治医に相談することが大切です。
タムスロシンには、射精障害のほか、女性化乳房や持続勃起症などの副作用もありますが、いずれも発現頻度は不明です。
こうしたデリケートな副作用が起こっている患者さんは自発的に相談するとは限りません。
もし、副作用が疑われる場合は、例えば次のように声をかけると、症状を伝えるきっかけになるかもしれません。
性機能に関する副作用がまれに起こることがありますが、何か気になる症状はありませんか?
患者さんが相談しやすい雰囲気をつくり、必要に応じて具体的な症状を確認することも、薬剤師の重要な役割です。
⑥ まとめ
タムスロシン(ハルナール)は、前立腺肥大症に伴う排尿障害に用いられるα1受容体遮断薬です。
しかし、薬理作用や一般的な副作用だけでなく、白内障手術におけるIFIS、尿管結石の排石促進目的での使用、食事による薬物動態の変化、射精障害など、薬剤師として知っておきたいポイントがいくつもあります。
こうした知識は、処方意図の理解を深めるだけでなく、患者さんへの適切な情報提供や医師との連携にもつながります。
例えば、タムスロシンを服用している患者さんが、ピレノキシン点眼を併用していれば、あらかじめ注意事項を伝えておくこともできます。
日々の調剤や服薬指導では、薬の基本的な作用だけでなく、その薬ならではの特徴にも目を向けていきましょう。
