薬の副作用欄で「血小板減少」という言葉を見たことはありませんか?
血小板は出血を止めるための重要な細胞なので、数が減るとあざが増えたり、出血が止まりにくくなることがあります。
今回は、薬が原因で起こる「薬剤性血小板減少」について、薬剤師の視点で分かりやすく説明します。
① 血小板が減るとどんな症状が出る?
血小板が少なくなると、体の止血力が弱くなり、次のような症状がみられます。
■身体に出やすい症状
- 青あざが増える(皮下出血)
- 鼻血・歯ぐきなど粘膜からの出血
- 皮膚に赤い点が出る(点状出血)
- 月経量の増加(女性)
- 血尿、黒色便(消化管出血)
■検査値
- 血小板の正常値:15~35万/μL
10万/μL以下で血小板減少とされます。
5万/μL以下であざや出血が増えやすくなり、1万/μL以下では脳出血など命に関わる出血の可能性があります。 - 白血球・赤血球・ヘモグロビンの低下
これらの値が低下するケースに関しては、 後述する「骨髄抑制タイプ」で説明します。
■気づきやすいタイミング
- 服用開始後 数日〜数週間以内
- 免疫反応が原因の場合は、急激に血小板が落ちて気づくことが多い
② 副作用が起こる仕組みと原因となる薬
薬による血小板減少は、大きく 「免疫反応タイプ」 と 「骨髄抑制タイプ」 の2つに分けられます。
【1】免疫反応タイプ
薬剤性免疫性血小板減少(DITP:Drug-Induced Immune Thrombocytopenia)
服用した薬が血小板と結合し、その結合体を異物と認識した免疫系が血小板を攻撃・破壊しようとすることで起こります。
原因となっている薬を中止すると、数日〜1週間で改善することが多いのが特徴です。
■原因となりやすい薬
- 抗生物質:ペニシリン、バンコマイシン、リファンピシン、セフトリアキソン、ST合剤 など
- 抗けいれん薬:カルバマゼピン
- 抗血小板薬:チクロピジン
- 甲状腺薬:チアマゾール、プロピルチオウラシル
- その他:一部の NSAIDs、H₂ブロッカー、利尿薬(ヒドロクロロチアジド)など
■発症の特徴
- 急激に血小板数が数千~数万/μLまで落ちることがある
- 同じ薬を再使用すると強く出やすい
- 原因薬を止めれば数日で回復
- 発生頻度はまれ
【2】骨髄抑制タイプ
骨髄における造血機能が低下するタイプ
薬の影響で骨髄で血液を作る力そのものが低下するため、
血小板だけでなく、白血球や赤血球も一緒に下がりやすいのが特徴です。
■原因となる薬
- 抗がん剤:シスプラチン、パクリタキセル など
- 分子標的薬:イマチニブ など
- 抗ウイルス薬:ガンシクロビル
- 免疫抑制剤:アザチオプリン、メトトレキサート
- 抗菌薬:リネゾリド など
■ 発症の特徴
- 徐々に血小板が低下
- 投与量や投与間隔の調整で改善することもある
- 抗がん剤治療では一般的にみられるため、定期的な血液検査が必須
③ 血小板減少が起こりやすい人
- 高齢者
- 肝機能・腎機能が低下している人
- 抗がん剤・免疫抑制剤を使用している場合
- 相互作用を起こしやすい薬を併用している人
- 過去に薬剤性血小板減少を起こした人
■ プレドニンについて(誤解されやすいポイント)
ここでよく誤解されやすい薬がプレドニン(ステロイド)です。
上記の項目に免疫抑制剤は血小板減少を起こす可能性があると記載していますが、プレドニンもそれに当てはまるのかと思った方がいるかもしれません。
プレドニンはその免疫抑制作用により血小板減少を起こす薬ではありません。
むしろ免疫細胞の血小板への攻撃を抑制するので、免疫性血小板減少症(ITP)、薬剤性免疫性血小板減少(DITP)の治療薬として使われ、血小板数を増やす方向に働く薬です。
④ 症状があるときはどんな対応をすべき?
血小板が著しく減ると、出血が止まらず命に関わることもあります。
症状がある場合は必ず医療機関へ相談しましょう。
■ 緊急受診が必要な症状
- 20分以上止まらない鼻血・出血
- 血尿、黒色便
- 強い頭痛(脳出血の可能性)
- 息苦しさ、めまい、失神
■ 早めに受診すべき症状
- あざが急に増えてきた
- 点状出血が広がる
- 鼻血や歯ぐきからの出血が多い
- 月経量が大幅に増える
■ 自宅で様子を見てもよい場合
- 軽いあざのみ
- 他の危険サインがない
※ただし自己判断は避け、早めに医療機関へ相談する
■ 出血時にできる応急処置
例えば、出血が続く間に自分でもできる応急処置として圧迫止血があります。
圧迫止血とは出血している部位を乾いた布やガーゼで強く押さえ、数分間圧迫し続ける止血法です。
手足の出血の場合は、もし可能なら患部を心臓より高い位置にすると止血しやすくなります。また、氷で患部を冷やすことでも止血効果があります。
本人ではない救助者が止血を行う場合は手袋などの感染症予防を必ず行いましょう。
■ 日常生活での注意
- 出血しやすい時期のシェービングや激しい運動は控える
- 打撲に注意
- 服薬中止は自己判断せず必ず医師・薬剤師と相談
⑤ 薬以外でも起こる血小板減少について
血小板が減る原因は薬による副作用だけではありません。下記の様なケースもあります。
■免疫性血小板減少症(ITP:Immune thrombocytopenia)
指定難病となっており、ウイルス感染・予防接種がきっかけと考えられることもありますが、原因が特定できないケースがほとんどです。
■妊娠性血小板減少
妊娠による血液量増加に対して血小板の濃度が下がるために起こります。
ただし、血小板が10万/μL未満の場合は、妊娠高血圧症候群に関連した疾患や免疫性血小板減少の可能性があるため、精密検査が必要になってきます。
■血液疾患(白血病、再生不良性貧血など)
その他の血液疾患では血小板以外の検査値でも異常値を示す場合がほとんどです。
⑥ 最後に
血小板減少と似ているようで、実はまったく異なるケースもあります。
まず、抗血小板薬や抗凝固薬は血液を固まりにくくする薬ですが、血小板の数そのものを減らす薬ではありません。
例えばバイアスピリンは、血小板凝集を抑制する薬であって、血小板を減らして血液をサラサラにする薬ではありません。
つまり、バイアスピリンが効きすぎた結果として血小板減少が起こるわけではありません。
また、抗凝固薬ヘパリンには、ヘパリン起因性血小板減少(HIT)という特殊な副作用があります。
これは「薬剤性免疫性血小板減少(DITP)」とは免疫反応のメカニズムが異なるため、別の病態として扱われます。
このように、血小板減少 といっても原因はさまざまです。
「あざが増えた」「鼻血が止まりにくい」など、少しでも気になる症状があれば早めに相談することが大切です。
迷ったときは、薬剤師に相談してください。
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